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HOME 温泉メカニズム体験記 セレクト1 源泉の愉しみ 岐阜県 濁河温泉
温泉メカニズム体験記「岐阜県 濁河温泉」
 古くから人々の信仰を集めてきた木曽御岳山の中腹に、その名の通り濁り湯が豊富に湧き出す温泉、濁河(にごりご)温泉がある。登山口として以前から登山客に知られた秘湯だったが、現在は一般にも名湯として親しまれている。盛夏でも涼風が吹き抜ける、日本でも有数の高地にある温泉を訪ねた。
※写真:岐阜県と長野県の県境付近。豊かな原生林が一帯を覆っている。
セレクト1 源泉の愉しみ セレクト2 ふるさとのいで湯

古来より信仰を集める火山、御岳山

濁河温泉からの登山口には、
遭難防止のための登山届出所がある。
 木曽川のほとりにあるJR中央本線の木曽福島駅から車で御岳山を目指す。高度をぐんぐんと上げて国道を走ると、やがて高原地帯に出る。開田高原だ。山と谷との急峻な地形の多い木曽路にあって、珍しく広大なこの高原は、信州の中でも特にソバの産地として昔から有名だった所だ。さらに進むと県境を越えて長野県から岐阜県に入る。地図上でこの県境を延長して見ると、御岳山の頂上へ続いている。御岳山は長野県と岐阜県にまたがる大きな独立峰なのだ。県境を越えてすぐに、白樺の原生林に囲まれた日和田高原に出る。木曽福島から濁河温泉に向かうと、ちょうど御岳山の東南のふもとから、北西の中腹へぐるりと回りながら登ることになり、日和田高原のあたりからは、かなり急な山道を走る。逆に、岐阜県側から濁河温泉へ入るには、JR高山本線の飛騨小坂駅から、東に向かってほぼまっすぐに山道を登って来ることになる。観光客や登山客は、東日本方面からは木曽福島、西日本方面からは飛騨小坂を経て来ることが多い。
 御岳山は、北から白馬岳、槍ヶ岳、穂高岳、乗鞍岳と中部日本の秀麗な山々が連なる飛騨山脈の南端に位置している。標高3063メートルで、乗鞍火山地帯に属する活火山だ。火山があれば、温泉があるわけで、御岳山の西のふもとには下島温泉、湯屋温泉があり、さらに北西の飛騨川のほとりに下呂温泉が控えている。
 御岳への登山は、古来から行われ、室町時代から特に盛んになったという。富士山をはじめとしてこうした独立峰は信仰の対象になるのだろう、日本三大霊山の一つと言われている。
 山道を車で上がって来て濁河温泉に至ると、すでに海抜は1800メートルに近い。
御岳山7合目に広がる濁河の温泉郷
 濁河の温泉郷には、山をくねくねと登る坂道に沿って山荘風の宿が多く見られる。ほぼ一本道に沿って、下から上まではかなりの標高差がありそうだ。一番上は御岳山の7合目にあたる。もともと、温泉郷としてよりも、登山の起点として発展した様子がうかがえる。温泉郷のほぼ最上部から、うっそうとした原生林の中の遊歩道をほんの十数分歩くと、木々の間からゴウゴウとお腹の底に響くような音が聞こえてくる。渓流に掛かる小さな木の橋を渡ると、突然、滝が姿を現わす。かつて行者がみそぎをした「仙人滝」で、落差は30メートル。滝つぼのすぐそばまで行くことができる。

濁河温泉から十数分歩くだけで、
幽玄「仙人滝」が現れる。

御岳山の7合目に濁河の温泉郷が広がる。
山荘風の宿も多い。
 点々と宿が連なる温泉郷の森の中には、下呂市営の露天風呂がある。浴槽は露天風呂だけだが、洗い場もある。濁河温泉独特の茶色い湯が、太陽光の下では、一層黄色く見える。真夏の日中はほとんど湯気も見えないが、入ってみればもちろん熱い。源泉は「濁河町営E泉」となっていて、泉質はナトリウム・マグネシウム・カルシウム−硫黄塩、炭酸水素塩泉(中性低張性高温泉)と記されている。色の元となっているのだろう茶色い温泉成分が湯の底に沈澱している。

温泉郷の森の中にぽつんと建っている
下呂市営の露天風呂。

市営露天風呂の様子。
もちろん濁河温泉独特の
茶色い湯があふれている。
茶色く濁った湯の不思議な味

濁河温泉の代表的な宿の一つ「旅館御岳」。
屋上には天文台がある。
 濁河温泉の代表的な宿の一つ「旅館御岳」に宿泊した。館内には大浴場とそれに付設されている露天風呂があり、外湯として「渓谷露天風呂」が設けられている。建物の前のテラスには足湯もある。
 源泉掛け流しのために、「小坂町営G泉」(毎分60リットル供給)、「奥飛観光1号線」(毎分160リットル湧出)、「御岳開発1号線」(毎分88リットル湧出)の3本の源泉から浴場に配湯されているという。湯舟には常に豊富に湯があふれていて、気持ちが良い。

旅館御岳のテラスに設けられている、
源泉掛け流しの足湯。

旅館御岳の大浴場。
豊富な湯が24時間浴槽にあふれている。
 大浴場と露天風呂に入ってみた。やはり黄色く濁っているが、臭いはほとんど感じられない。色からは刺激があることも想像できるが、刺激もなく、むしろやわらかい感じがして、とても入りやすい。最初はちょっと熱い感じもするが、すぐに体が慣れてくる。
 泉質は、市営の露天風呂と同じ。効能は神経痛、筋肉痛、関節痛、慢性消化器病、疲労回復、慢性皮膚病などとなっていて、登山の前後にも効果がありそうだ。
 露天風呂の湯舟の端に飲泉所があり、温泉水が飲めるようになっている。「長野県薬剤師会より温泉法に基づき飲泉許可を取得」とあり、入浴による温泉の効能に加えて飲用の適応症等として、肝臓病・糖尿病・慢性便秘、糖尿病、肥満症等が追加されたという。飲んでみると、かすかに味がある。この味は、塩味や硫黄の味とも異なり、言葉で表現するのが難しいが、温泉分析表の知覚的試験の項目には、「苦味・微鉄味・微炭酸味を有す」と記されている。宿ではこの源泉を使った「源泉豆乳豆腐」や「にごりご温泉粥」といった料理が出される。温泉粥は、源泉に岩塩を加えただけだというが、不思議な味わいがあってうまい。

大浴場に付設する露天風呂。
山の空気をたっぷりと吸うことができる。

露天風呂にある飲泉所。
慢性消化器病、痛風、肥満症などに
効果があるという。
 ちなみに、市営の露天風呂の方には、この味は「微しゅうれん味」と記されている。「しゅうれん」とは「収斂」のことだろうか。だとすると「引き締まるような味」という意味か。あるいは、辞書によれば「収斂剤」とはタンニンやミョウバンの類いで、タンニンは渋柿などに含まれる強烈な渋味の成分、ミョウバンは硫酸アルミニウムと硫酸カリウムの結合物のことだから、それらに似た味がするということだろうか。
 次に混浴の渓谷露天風呂に行ってみた。宿の外の崖に沿って160段の階段でおよそ50メートルを下ると、はるか眼下の渓流に岩で囲まれた露天風呂がある。脱衣所は別々で、女性は水着の着用もできる。
 渓流の水音を聞き、原生林の空気を吸いながらの入浴は、本当に「秘境の湯」と呼ぶのにふさわしい。雪に覆われた季節にもぜひ来てみたいものだ。

崖に沿っておよそ50メートルを
階段で下ると混浴の渓谷露天風呂がある。

木立と夏草に囲まれた渓谷露天風呂の一部。
冬にはまた、別世界になるという。
COLUMN
 温泉郷の一番上に御岳山の登山口があり、ここに「登山届出所」と看板が出ている。屋根の下に紙と筆記台、それに郵便ポストのような箱がある。紙には登山者の氏名や連絡先、登山日程を記すようになっていて、これを箱に入れる。万一、遭難した時には地元警察などが開けて調べるのだろう。御岳登山が本格的な用意と装備を必要とすることが分かる。だから、その7号目にある濁河温泉は、歓楽や喧噪とはほど遠く、自然や静寂に限りなく近い。
(取材:岩間靖典)
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