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秋田県 乳頭温泉郷と玉川温泉 
温泉メカニズム体験記「秋田県 乳頭温泉郷と玉川温泉」
 十和田八幡平国立公園を訪れると、北東北に特有のさまざまな自然が姿を現わす。ブナの林や大小の池沼、そして火山活動と温泉。7つの秘湯の乳頭温泉郷と強酸性の玉川温泉を体験した。
※湯の川となって流れる玉川。手前は源泉などを導くパイプか。
セレクト1 源泉の愉しみ セレクト2 ふるさとのいで湯

美しい乳白色の湯が心身をいやす
 秋田県の田沢湖から、北東方向へ15キロ、岩手県との境にある標高1,478メートルの乳頭山。そのふもとに乳頭温泉郷が広がる。温泉郷という名のとおり、乳頭温泉という1つの温泉があるわけではなく、7つの温泉が一帯に散在している。鶴の湯(つるのゆ)、妙乃湯(たえのゆ)、大釜(おおがま)、蟹場(がにば)、孫六(まごろく)、黒湯(くろゆ)、それに国民休暇村の7つだ。
 そのひとつ、鶴の湯へ行ってみる。門をくぐって驚くのは、350年の歴史をもつという、かやぶき屋根の建物だ。山懐に、旅館部や自炊部を含めたこれらの木造の建物が並び、その奥に合計7つの湯殿や露天風呂が並んでいる。白湯と黒湯に入ってみた。

鶴の湯温泉の「本陣」を
目の当たりにするだけでも、
温泉の「転地効果」があるだろう。

素朴な木造の湯殿。
ガラス戸の向こうに見える白い湯に
期待がふくらむ。
 白湯は、文字どおりの乳白色の湯で、木の樋から木の浴槽に注がれて大変に美しい。美人の湯とも冷えの湯とも呼ぶらしい。泉質は「含硫黄ナトリウム カルシウム−塩化物 炭酸水素泉」。刺激を感じることはなく、肌にやさしい感じだ。高血圧、動脈硬化症、慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、糖尿病が浴用の適応症となっている。そして、隣接してあるのが黒湯。しかし色が黒いわけではなく、やはり白濁した湯だ。ただ泉質はやや異なる。「含硫黄ナトリウム−塩化物 炭酸水素泉」。温(ぬく)たまりの湯とも呼ばれるそうで、なるほど、上がってからも温かさがなかなか引かない。この温かい体のままに、妙乃湯へ向かった。

白濁が濃く、入ると体が見えないほどだ。
肌にやさしい感じがする。

黒湯というが、黒い湯というわけではない。
深い浴槽で体がじっくり温まる。
茶色の湯につかって谷川をながめる妙
 山道の途中に、落ち着いた雰囲気の構えを見せている妙乃湯。ここには、銀の湯と呼ばれる「単純泉」と、金の湯と呼ばれる「酸性−カルシウム・マグネシウム−硫酸塩泉」の2種類の温泉がある。

妙乃湯温泉は、渓谷沿いに建つ
落ち着いた静かな雰囲気の温泉旅館だ。

露天風呂の木の湯舟に、茶色い源泉が
注がれてあふれる様子が好ましい。
 谷川を臨む露天風呂の金の湯に入った。この谷川は玉川の支流で、乳頭山付近を源流とする先達(せんだつ)川だ。湯の方は、金の湯という名前だけあって、黄色っぽい茶色のにごり湯だ。弱酸性で鉄分が含まれているのでこのような色になるのだろう。効能は、皮膚病、リューマチ、神経痛、貧血とある。
 温泉の色というのも、心をいやす大きな効果がありそうだ。山あいの温泉をはるばると訪ねてきて、谷川をながめながら茶色の湯につかっていると、何とも不思議な気持ちがしてくる。これこそが「非日常」によって与えられる癒しなのだとつくづく感じる。
湯治場にあふれる湯はものすごい酸っぱさ

玉川温泉の岩原を散策すると、
「地殻の変動」を感じることができる。
 乳頭温泉郷からそう遠くない場所に玉川温泉がある。玉川をさかのぼって、支流の渋黒川(しぶくろがわ)に沿って登る。玉川温泉は昔は鹿湯とか渋黒温泉とも呼ばれていたらしい。ここは乳頭温泉郷とはかなり異なったおもむきを見せる。付近一帯はガスや蒸気が発散し、岩山は変質している。ラジウム放射能を含む、天然記念物の北投石という鉱物も産出される。

「大噴(おおぶけ)」と呼ばれる玉川温泉の源泉。
ものすごいというより、恐ろしい。

湯の花を採取するための
木の樋(とい)が長く連なる。
 「大噴(おおぶけ)」と呼ばれる源泉は98℃と高温で、1分間に9,000リットルという1カ所からの湧出としては日本一の量だという。この一帯は散策できるようになっていて、火山活動を目の当たりにできる。白い岩肌のあちこちから湯気が上がっているが、ところどころに、散策ではなく、ゴザを敷いてその上でくつろいでいる人を見かける。地熱に触れる岩盤浴だ。また、岩原のただ中に湯舟が設けられているが、衆目の中で入るには、ちょっと勇気がいるだろう。

蒸気が噴き出す岩原で
岩盤浴をする人たちが見える。

文字通りの露天風呂もある。
 ここで噴出した湯が温泉施設へ導かれている。玉川温泉には旅館部のほかに200名以上を収容できる自炊部もあって、湯治客の多いことが分かる。泉質は「酸性−含二酸化炭素・アルミニウム・鉄(II)−塩化物泉」。ラジウムを含み、塩酸を主成分としたpH(ペーハー)は1.2の強酸性だ。

団体客も訪れる玉川温泉。
向こうに見えるのは自炊部の建物。
 大浴場でその湯を体験した。肌をこするとただれると注意があるので恐る恐る入るが、ヒリヒリするようなことはない。そしてそっと口に含んでみた。ものすごく酸っぱく、すぐに吐き出した。飲用するためには、10倍にうすめて、歯への影響を防ぐためにストローを使って飲むか、飲用後にうがいをする、というのもうなずける。
 浴用での効用は、神経系、消化器系、代謝系、循環器系、皮膚系、外傷、飲用では消化器系のほかに、糖尿病、その他。蒸気の吸入も気管支炎などに効用があるという。
 長湯はせずに上がって外に出ると、風が気持ち良い。そして、上がる人たちと入れ替るように、健康を求める老若男女が次々と湯殿に吸い込まれていった。
COLUMN
 湯治というのは、9〜10日間くらいが普通の滞在期間だという。しかし、2〜3週間ほど滞在すると、さらに充分な効果が期待できるのだそうだ。普通に働いている人には難しいが、劇的な効果ではなく、少しずつやさしく効果が出るということなのだろう。長期の滞在は、すぐには実現できなくとも、湯治とはそういうものだということを憶えておきたいと思った。いつか湯治を必要とする日のために。
(取材:岩間靖典)
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