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HOME 温泉メカニズム体験記 セレクト1 源泉の愉しみ 石川県 山代温泉
温泉メカニズム体験記「石川県 山代温泉」
 日本海に面した北陸地方の石川県は、古くから多くの名湯が知られている日本有数の温泉地帯だ。その中でも山代温泉は1300年以上も前に、人が利用する温泉として開かれたといわれている。老舗の宿が並ぶ伝統ある温泉を体験した。
※写真:源泉が湧き出る場所は整備されて源泉公園となっていて、足湯もある。
セレクト1 源泉の愉しみ セレクト2 ふるさとのいで湯

山中温泉などとともに加賀温泉郷を形成

山代温泉の開湯に由来のある古刹。
その名も薬王院温泉寺。
 石川県の南部、福井県の県境近くに、いくつかの温泉が連なっている。日本海側から見ると少し内陸に入った所、南加賀山地の西側山麓に沿って位置するのがここ加賀温泉郷だ。逆に内陸から加賀温泉郷の位置を見ると、県南部の白山火山脈のある両白山地が、日本海へ向かって高度を下げてくる途中に位置している。加賀温泉郷には山代温泉、山中温泉、粟津温泉、片山津温泉が含まれ、どの温泉も名湯として知られている。
 山代温泉は、北陸本線の加賀温泉駅から車で15分ほどのところにある小さな温泉街だが、開かれたのは約1300年も前だという。行基(ぎょうき)という高僧が、白山に修行へ行く途中にこの地で、傷ついた体を水たまりで癒している1羽のカラスを見つけたという伝承がある。「動物が温泉に入っているのを見て」と「僧侶が発見し」というシチュエーションは、各地の古い温泉によく見られる開湯の伝承だ。動物はその本能から温泉の効能を知っていたのだろうし、僧侶は当時の最高の知識人であり医者でもあったから、こうした伝承が生まれるのだろう。ここには明智光秀も滞在したといわれ、近代では数々の文人墨客が逗留している。
 行基にゆかりのある寺が温泉街の中央にあった。薬王院温泉寺というお寺で、まさにこの場所にふさわしい名前だ。訪れた時、境内は桜が満開だった。
「総湯」を取り囲む「湯の曲輪(がわ)」

源泉公園の正面にある源泉配湯槽は
巨大なモニュメントのようだ。

「湯の曲輪(がわ)」と呼ばれる場所の中心に建つ
公共浴場の「温泉浴殿 総湯」。
 山代の温泉街は、薬王院温泉寺、源泉が湧き出ている源泉公園、公共浴場の「温泉浴殿 総湯」を中心に広がっている。
 源泉公園に足を踏み入れると、正面に巨大なモニュメントがある。金属製の大きな円筒の周りにたくさんのパイプが配されていて、何か近未来的なデザインだが、実はモニュメントではなく源泉配湯槽という装置だ。まさにここから源泉が湧き出していて、各旅館に温泉が配湯されているのだろう。公園には足湯があり、開湯伝承ゆかりのカラスの像の下からは、源泉が流れ出ていて飲泉できるようになっている。
 公共浴場の「温泉浴殿 総湯」は、大きな真四角の建物で、まさに温泉街の中心の中心に位置している。周囲を道路が取り囲んでおり、この道路に面して源泉公園やいくつかの旅館、コミュニティー施設などが立ち並ぶ。この総湯を取り囲んだ一帯は、「湯の曲輪(がわ)」と呼ばれている。「がわ」は「くるわ」がなまった言葉だろう。
 総湯に入ってみた。入浴料大人370円。ここは、まさに地元の人たちのふれあいの場となっているようだ。早い時間からお年寄りたちがのんびりと、大きな2つの円形浴槽につかっていた。
380年前に創業した宿の本館は築180年

創業から382年という白銀屋。
本館の建物は築180年で国の有形文化財。

客室から眺めた庭。
短い年月ではこんな風格は
出ないだろう。

白銀屋「尚武の湯」の露天風呂。
弱アルカリ性のやわらかい湯だ。
(写真提供:白銀屋)

白銀屋のフロント。
ものすごく高い天井に
黒光りした梁が縦横に交錯する。
(写真提供:白銀屋)

白銀屋「吉祥の湯」。
湯槽は古代檜の一枚板で
作られているという。
 湯の曲輪にある旅館の中でも、とりわけ風格があるのが文字通りの老舗旅館「白銀屋」だ。何しろ創業が江戸時代初めの寛永元年(1624)という。紅色の格子が美しい本館の建物も築180年と、こちらも江戸時代からの建物だ。実際に宿泊可能で、国の有形文化財に指定されている非常に貴重な建築物である。
 さて、本題の温泉に入ってみよう。「吉祥の湯」は古い檜で作られた浴槽の香りが心地良い。湯は無色透明、泉質はナトリウム・カルシウム−硫酸塩・塩化物泉だが、ほとんど無味無臭だ。源泉の温度は64.3℃、弱アルカリ性で、湯に刺激がなく入りやすい。最初は少し熱い感じがするが、しばらくすると、湯がとてもやわらかく感じられてくる。温かい湯が全身をしっかりと包んでくれる感触が何とも心地よく、長湯をしてしまいそうだ。効能は神経痛、関節痛、神経痛、冷え症、動脈硬化など。ここの源泉は新1号源泉となっているから、源泉公園で見たあの配湯槽からの豊富な湯なのだろう。山代温泉全体としても湯量は非常に豊富で、源泉によって他に、ナトリウム・カルシウム−硫酸塩泉とアルカリ性単純温泉の2種類の泉質がある。

山代はまた、九谷焼発祥の地だ。
窯元の風情のある建物も見られる。

「女生水」

「男生水」
名湯のあるところに名水あり。
山代の生活を支えた名水「女生水」と「男生水」。
 山代温泉は大温泉街ではないが、何とも情緒があって好ましい。歩いてみると街角に古い造りの、九谷焼の窯元があったりする。街を少し外れた所に、祠で祭られた湧き水が2カ所あった。「女生水」と「男生水」と呼ばれ、現在も飲用されているが、かつては山代の人々の生活を支えた水であったという。山代温泉には古くからの歴史が温泉とともに継承され、現在も息づいていることを感じた。
COLUMN
 古い建築物の風格は、やはり“歳月”によってしか出ないものだと思う。もし、木材を豊富に使い、格子窓を設け、屋根瓦を並べても、それが新しいもの、つまり歳月を経ていないものであるなら、やはり風格は出ない。この場合の歳月を経るということは、古くなってボロボロになることではない。多くの人間が接し、手を入れながら継承してきたということだ。だから古くて美しいのである。温泉にもある種の風格があるとしたら、それは長い年月にわたって、無数の人が利用し、そこで安楽を得てきたということだろう。
(取材:岩間靖典)
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