別府温泉から少し内陸に入った由布院盆地に湧き出す豊富な温泉。古くから保養地として知られていたが、最近では、のどかな田園風景とアートを取り入れた町づくりが女性の人気を集めているという。まさに休養のための温泉郷を見聞した。
※写真:雪で一段と湯煙をあげる金鱗湖


雪の由布院駅:
真っ赤なディーゼル車が旅情を誘う

構内の足湯:
普段は観光客で賑わっているのだが、
さすがにこの日は…
 由布院の温泉郷は周囲を山に囲まれた盆地で、東に雄大な由布岳を望む。広々とゆったりとした自然の中にあるので、温泉地に来ることでまず気分転換をさせる「転地効果」も充分得られるだろう。それに非常に湯量が豊富なことでも知られていて、場所によっては1メートルほどの掘削で温泉が噴出するそうだ。東西6キロ、南北3キロの間に、岳本、津江、湯の坪、田中市、石松などの地区があり、周辺部を含めて由布院温泉郷となっている。1959年には旧厚生省の国民保養温泉地に認定された。近年になってさらに、静かで落ち着いた温泉郷として知名度が定着するように、アート感覚も取り入れたイメージ戦略が成功しているようだ。
 由布院を訪ねた日は、ふわふわのボタン雪が風に舞っていた。九州でもこのあたりは冬にはしばしばこうした天気に見舞われるそうだが、雪の由布院の風情もすばらしい。JR九大本線が由布院盆地に食い込むようにカーブしたあたりに、町の中心にある由布院駅がある。駅の構内には足湯の施設があるが、雪のこの日はさすがに人の姿はない。
 由布院の町じゅうで豊富に温泉水が湧き出しているが、町の外れにある湖の中からも温泉水が湧出している。金鱗湖という、湖というよりは神秘的な沼といった雰囲気の場所だ。寒い時期には湖面から湯気が上がり、由布院の名物とされる朝霧の発生源にもなっている。訪れたこの日は、さすがに雪の降りしきる中、湖面からはもうもうと湯気が立ち上っていた。もともとは由布岳のふもとにある池ということで「岳ん下ん池」と呼ばれていたそうだ。そしてこの金鱗湖のほとりに有名な「下ん湯」がある。
 かやぶき屋根の小屋は新しい建物で内部もたいへんにきれいだ。200円の入湯料を入口の箱に入れる無人の公共浴場である。混浴で、中には浴槽が2つある。入口の反対側は壁がなく外に開かれており、1つの浴槽は半分外にはみ出したようになっている露天風呂だ。
 由布院には他にも味のある共同浴場が何カ所かある。もう1カ所たずねのは、西石松地区にある「加勢の湯」。地元の人は「石松の湯」などと呼んでいるようだ。入湯料100円の無人の浴場で、建物は木造平家建ての相当に古いものであることが分かる。すきま風が吹き込むような建物だが、温泉が豊富に湧き出していて室内は温かい。しかし、地元の人でないとちょっと場所は分かりにくいし、入るにも勇気がいるかも知れない。この日は雪の中、近所の女性が入りに来ていた。
 由布院の町は古くから温泉に親しんで来たために、このような情緒あふれる共同浴場があり、一方で洗練された宿泊施設や美術関連施設が充実している。

下ん湯:風情のあるかやぶき屋根が特長

加勢の湯:
非常に古い木造建築。
知らない人はこれが
共同浴場だとは気づかない

加勢の湯の室内:
温泉水の熱気で
室内は温かい

空海の湯:晴れた日には由布岳を望む最高の絶景
 中心部から少し離れた「山のホテル夢想園」に宿泊した。この宿の自慢は露天風呂で、標高1、584メートルの由布岳の眺望がすばらしい。ホテルの場所が町の中心をはさんで由布岳の反対側の台地上にあるため、開けた展望のまん中にゆったりとした頂きが見える。この日は、雪が風向きで途切れる刹那に、由布岳がすっと明るい姿を現わしていた。
 露天風呂は「空海の湯」(女性専用)と「御夢想の湯」(男性専用)がメイン。御夢想とは不思議な名前だが、約600年前の伝説から名付けられたそうだ。難病に困った僧侶が弘法大師に願をかけたところ、霊泉を教える夢のお告げがあったという。古くから湯治の場所とされていたことがうかがえる。

御夢想の湯:男性専用の露天風呂。
脱衣室はかやぶき屋根になっている
(2点とも写真提供:山のホテル夢想園)
  泉質は単純温泉。無色透明でにおいも味もほとんど感じられない。単純温泉は成分が薄いために刺激が少なく、入り心地がとてもいい。また、温泉浴によって効用があるとされる症状のうち、貧血症や痛風を除いたほとんどの症状にゆるやかな効果があり利用範囲が広いとされている。お年寄りに向いているともいわれるが、要するに、のんびりとゆるやかに治療効果が期待できるということであろう。そしてそれはまた、日常生活のストレスをきれいに払拭してくれる。
 女性に人気が高いのは「がんばらなくてもいい」雰囲気を町がかもし出し、それを感じることができるからだろう。
COLUMN
 天然の豊富な温泉と縁のない都市部に住んでいると、近所に気軽に安く入れる共同浴場の温泉があるなどというのは、夢のようなことだ。街中のごく普通の小さな建物の中に、あふれる源泉掛け流しの浴槽がある。寒い日などにサンダルをつっかけて、洗面器を持って家のすぐそばのその建物に駆け込む。冷えていた足先から温まった血液が循環するかのような安堵感。充分に温まったら、そのまま家へ駆け込んで寝てしまう。これこそがぜいたくだと思うなあ。
(取材:岩間靖典)
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