南国土佐の高知駅から車で約40分。四国山地の山ふところ深くに一軒宿の土佐山温泉がある。人込みと時間から開放されて味わう、温泉の癒し効果をたっぷりと体験してきた。
※写真:(借用写真)、露天風呂では山からのさわやかな風を体いっぱいに浴びる。
提供:オーベルジュ土佐山



高知駅から車で約40分の山あいに
土佐山温泉はある。

澄み切った空の下に
一軒宿のオーベルジュ土佐山がたたずむ
  温泉地というと、昔ながらのにぎやかな温泉街や、逆に山の中の秘湯を思い浮かべる。そしてそのどちらも楽しい。それは、日常から離れた場所で時間を過ごすことが、温泉に入るという物理的な効果だけでなく、心の疲れを癒す効果(転地効果と言われるもの)があるからだ。

 山の中の秘湯の場合には一軒宿のことも多い。一軒の宿だけだということで、見知らぬ土地へ来たという非日常の感覚にも特別のものがある。この転地効果を充分に体験できる宿を訪ねた。

 高知県の山の中、旧土佐山村(現高知市)にある土佐山温泉も一軒宿の温泉地だ。しかしここは、山の中の一軒宿といっても昔ながらの温泉宿とはだいぶ違い、名前もオーベルジュ土佐山という。オーベルジュとはもともとフランス語で「小さな宿」を意味するが、
最近では料理やたたずまいを重視した宿泊施設を意味する場合が多いようだ。ここもその名の通り、欧風のモダンな建築で、ゆっくりと時間を過ごすようになっている。

ゆるやかな谷川を目の前に
欧風建築がしっくりと落ち着く。
浴室棟も木材を
ふんだんに取り入れた造りに
なっている。
 四国の真ん中を走る四国山地。その一角にある工石山(くいしやま)という山を背にして、目の前にはおだやかな渓流の鏡川を臨む立地に土佐山温泉は湧き出ている。この場所の空気が良いことは、初春の晴れ渡った空を見ても、風のにおいをかいでもすぐに分かる。

 さっそく日が高いうちに入浴してみる。浴場はエントランスのある棟から渡り廊下で
つながった別棟にある。泉質はふっ素イオン・メタほう酸という。無色透明で刺激がなく入りやすい。

 露天風呂からの眺めで目に入ってくるものは、ひたすら周囲の山と空ばかりだ。南国といわれる高知だが、市街から山へ入ってくると空気もだいぶひんやりとしている。湯舟に入って、気ままに上がって板敷きの上で深呼吸をして、また湯舟に入る。何度か繰り返すうちに、だんだんと自分が日常から遠ざかっている実感が湧いてくる。温泉の温熱効果によって血行が良くなっている実感とともに、心理的にも解放されてくることが感じられて、
転地効果がいかに温泉の効果の中でも大きいものであるかがはっきりと意識される。

 屋根のない露天風呂は、顔を上げれば空の広がりをいっぱいに感じられるのがすばらしい


玄関には大きな暖炉が備えてある。

客室は洋室ながら、
土佐和紙や土佐しっくいを使っているという。

ツインルームの片側の壁は
一枚ガラスで渓谷を臨む。


無色透明の温泉は刺激がなく入りやすい。
  車で市街から40分ほど山に入っただけだが、その40分で、便利さとにぎやかさから、たちまち遠ざかってしまう。ここにはコンビニも飲食店もない。目につくのはこの一軒の宿だけだが、驚いたことに、部屋には時計もテレビも置いていないのである。こうなってしまうと、嫌でも喧噪と日常から離れざるをえない。ただCDプレーヤーが部屋にあるので、自分でお気に入りのCDを持ってくれば音楽に浸り切ることもできる。フロントでCDの貸し出しも行なっている。もちろん、読書をするのにも良いだろう。また、ツインルームの壁の一方は全面が一枚ガラスで山に向かって開かれているし、家族などで使うヴィラと呼ばれる部屋には大きなテラスが付いているので、日が暮れるまで外の景色を眺めているのも良いだろう。

 しばらく部屋で過ごして、また入浴してみる。さすがに日が暮れると初春の山は寒いが、温かい湯にどっぷりと入れるという期待感には、むしろ寒さが心地良くもある。

 食事は、地場の山や川の食材、土佐の近海の魚介などを使った和風創作料理ということで、これも温泉の楽しみの大きなひとつといえるだろう。

 もちろん、翌朝、またひとっ風呂浴びるのも楽しみだ。


(借用写真)、
露天風呂では山からのさわやかな風を
体いっぱいに浴びる。
COLUMN
 何もしないでいる時間というのは貴重だ。ここでは湯に入っていても湯から上がっていても、否応なしにそういう時間を過ごすことになる。ぼんやりしている時間の中から、良い発想やすばらしいアイデアが生まれるという。また、そうした時間は自分に関するいろいろな事柄を見直すのにも良いのだそうだ。私の場合には、はっと気が付くと、思い浮かべることは、とても人さまには言えない通俗的なことばかりであった。
(取材:岩間靖典)
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