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第16回 秋田県 後生掛温泉
 秋田県と岩手県の県境にまたがる八幡平一帯は、日本でも有数の火山地帯だ。火山があれば温泉がある。ここ後生掛温泉は「馬で来て足駄(あしだ)で帰る後生掛」と歌われるほど諸病に効用があるという。この野趣あふれる名湯を訪ねた。
※写真:朝もやが立ち込める八幡平の自然。
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大火山高原の雄大で激しい自然
 八幡平(はちまんたい)は、知らない人はその名前から平野を想像するかも知れないが、標高1,613メートルの火山である。頂上附近が平坦なことから、この名前があるようだ。そしてこの名のように、八幡平はアスピーテ火山、別名、楯状火山だ。つまり楯を伏せたように非常にゆるやかなこう配をもっている。
 この大火山高原地帯に、アスピーテラインという道路が通っていて、この道路から分かれて谷のどん詰まりに入ると、一軒宿の後生掛温泉がある。建物の周囲にはいたるところから湯があふれて湯煙りが上がっている。そして、建物の裏手から遊歩道が延びていて、数分も歩くと、まるで火山と地質学のテーマパークのように、さまざまな火山現象が間近に見られる。

火山地帯の湯煙に囲まれて建つ一軒宿、
後生掛温泉。

建物のすぐ後ろには
火山地帯独特の景色が広がる。
 まず、後生掛温泉の源泉で「オナメ・モトメ」と呼ばれる湯沼があり、ブクブクと熱湯が沸き上がっている。この「オナメ・モトメ」という言葉は、妾と妻を意味する方言で、一人の男と二人の女の悲恋の伝説がある。後生を掛けるとは、生まれ変わりを願うという意味で、この伝説が、後生掛温泉の名前の由来だそうだ。さて、さらに遊歩道を先へ歩くと、摂氏94度の泥が噴出する「紺屋地獄」、広い範囲に湯と泥が激しく吹き上がる「大湯沼」、噴出した泥でできた日本一といわれる「泥火山」などが、続々と登場する。

宿から歩いて数分の場所にある「大湯沼」
一帯では、噴湯・噴泥が盛んに活動中。

染料を煮ているかのような「紺屋地獄」と
呼ばれる湯沼。摂氏94度の泥が噴出。
湯治場としても古くから信望がある

一般の旅客のための旅館部以外に、
長期で療養する人のための湯治部がある。

湯治部の廊下両側に並ぶ「オンドル大部屋」。
地熱で床が温まっている。
 東北地方には、湯治場としての温泉宿がいくつかある。 後生掛温泉も旅館部と湯治部に分かれており、一般の旅行客とは別に、じっくりと療養に訪れているお客さんが利用している。後生掛温泉での「湯治のしおり」には、通常は1週間から2週間ほど滞在するのが効果的と記されている。
 湯治部の大きな特徴は「オンドル部屋」だ。この部屋は、地熱によって床が一年中温まっていて、寝ているだけでも湯治になるというものだ。オンドル部屋には個室と大部屋があり、自炊客のための売店や自炊場も設けられている。
 後生掛温泉の泉質は酸性の硫黄泉。効用は、胃腸病、神経痛、腰痛、膝関節症、交通事故の後遺症、リウマチ、喘息、婦人病、更年期障害、内蔵手術後の療養、冷え性、治療後のリハビリ、その他と実に幅広く、古くから湯治客の信望を集めている。
「箱蒸し風呂」や「泥湯」の楽しさ

大浴場はログハウス風のつくりで、
いくつかの入浴法を楽しめる。

露天風呂。太陽光で見ると湯が
乳白色をしているのが分かる。
 いよいよ、湯に入ってみよう。大浴場の扉を開けると、高い天井まで湯気が上がる。まずは、一番大きな浴槽に入る。湯は乳白色で硫化水素のにおいがかなりする。「湯治のしおり」には、初日から回数を多く入ると「湯負(ゆあたり)」をすると書いてあるが、確かに刺激も強い。次に小さな浴槽の泥湯に入る。非常に粒子の細かい泥が底にたまっており、それが舞い上がって湯も濃い灰色をしている。浴槽に先に入っていた年輩の男性は、この泥を肩に塗りたくっている。湿布薬のような効果や、肌をきれいにする効果があるのだそうだ。

「泥湯」の浴槽。
湯舟の底に泥がたまっている。

この泥を首筋や肩に
塗りたくりながら湯に浸かる。

木箱から頭だけを出して
蒸気で温まる「箱蒸し風呂」。
 そして、ここの名物が、木箱から頭だけを出して蒸気で温まる「箱蒸し風呂」。箱の中に腰掛けて、ふたを閉める。なるほど、蒸気でほかほかと体が温まるが、首から上は外に出ているので、頭が熱くならないのが良い。
 その他に打たせ湯や露天風呂に入っていたら、ちょっとのぼせてきた気がする。つい楽しくて、もっともっとという気持ちになるが、温泉入浴の基本に戻って、程々にしておいた方が良さそうだ。
COLUMN
 後生掛温泉の大浴場の出入り口附近に小さな蛇口があって、「もうせん峠の水」という札が掛かっている。もうせん峠は宿の上にある焼山という山の別名。入浴後には充分な水分補給が必要だ。さっそくコップにこの水を受けて飲んでみる。うまい、実にうまい。とても冷たくて、清らかだ。地底から湧き出た温泉に浸かり、峠から流れ出た冷水を飲む。自然のものを身体に多く取り入れる。現代人にはこういうことが大切なんだなとつくづく感じた。
(取材:岩間靖典)
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