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第18回 青森県 蔦温泉と酸ケ湯温泉
 温泉の湯は、できるだけ人の手を加えない源泉が好ましい。十和田八幡平国立公園にある北東北の名湯・蔦(つた)温泉と酸ケ湯(すかゆ)温泉には、湧き出す源泉の上にそのまま浴槽を設置した浴場があった。
※写真:十和田八幡平国立公園の中に見られるブナの原生林。9月中旬でも青々と葉が繁っている。
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ブナ原生林に囲まれた北東北の自然美

北東北の大自然の中に、湯気を上げる沼があった。
周囲はとても静かだ。
 本州の最北部に近い十和田八幡平国立公園には、日本の他の場所では見られない独特の自然が広がっている。その代表が「十和田樹海」とも呼ばれるブナの原生林だろう。訪れた季節は夏の終わり頃だったが、ブナには青々とした葉が繁っていた。そうしたブナ原生林のところどころに静かな沼が横たわっていて、中には、水中に源泉があるのか、温泉が流れ込んでいるのだろう、もうもうと湯気を上げる沼もある。この一帯は冬には深い雪の中に埋もれるが、蔦温泉と酸ケ湯温泉ともに現在は通年で営業をしている。
 こうした自然に抱かれて、他の北東北の多くの温泉と同様に蔦温泉と酸ケ湯温泉は、古くから湯治場として知られている。
木の底板の間から源泉が湧き出る

蔦温泉の正面玄関は古風な木造の造り。
向かって左側の窓に「かんじき」が見える。
 森に囲まれた静かな蔦沼の近くに一軒宿の蔦温泉がある。玄関の左側には懐かしい円柱型のポストがあり、窓の中にはいくつも“かんじき”が見える。かんじきは雪に足がもぐらないように付ける雪国独特の道具だ。玄関の右側にある帳場も昔ながらの雰囲気なのが懐かしい。玄関脇の湧水をひしゃくにくんで飲んでみると、実に清冽なうまさだ。

帳場も何とも懐かしい造りになっている。
上には「蔦温泉」と書かれたちょうちんが
掛かっている。

後ろの棟は小高い所に建っているため、
そこへ行く階段はものすごく長い。
 建物全体にトチ材やブナ材が豊富に使われているということだが、どこもよく磨き込まれていてきれいだ。ここには3つの浴場があるが、どれも源泉の上に浴槽が作ってあるという。古びた雰囲気が人気の「久安 (きゅうあん)の湯」に入ってみた。

大浴場の1つ「久安の湯」。
浴槽の下がすぐ温泉で湧出した源泉に
そのまま入れる。

この浴槽の底の板の間から湯が
ゆっくりと沸き出しており、
時々気泡が浮き上がってくる。
 壁も床も木造の浴室。その床を掘り下げたように浴槽がある。無色透明の湯を透かして底の方をよく見ると、底に張ってある板の間から時々気泡が出てきて、ゆっくりと上がってくるのが分かる。浴槽の縁からは湯があふれて流れ出ている。本当にこの板の下が源泉のようだ。
 入ってみると、初めはちょっと熱い感じもするが、泉質は単純泉なので、刺激はなく肌にやさしい感じがする。効能としては外傷、各種の慢性病、諸病の回復期などに最適となっている。他に人がいなかったせいもあり、この湯のやさしさに、心と体の緊張がほぐれていくのが実感できた。
総ヒバ造りの大浴場に「酸っぱい湯」が湧く

酸ケ湯温泉湯治部の建物は木造2階建て。
一軒宿だが、旅館部や浴場などいくつもの建物がある。
 酸ケ湯温泉は山の中の一軒宿だが、建物の規模は大きい。湯治場としてお客さんが長期滞在するための部屋がたくさんあるからだ。湯治部の木造2階建ての大きな棟は、いかにも古くからの湯治場といった雰囲気がある。

風情ある木造の建物内には、湯治客用に
食料品や日曜雑貨を売る売店がある。

湯治客用の炊事場もある。
長期滞在の湯治客はここで自炊をする。

酸ケ湯の近くにある「まんじゅうふかし」。
高温の蒸気の上に設置した木のふたに座って温まる。
 本館にある大浴場は、総ヒバ造りで「千人風呂」と呼ばれるほど広く、80坪もある。そして伝統的に男女混浴だ。ただ、女性専用の時間帯もある。入口は男女別になっていて、風情のある番台の前を通って中に入る。なるほど、これは大きい。左右で男女のエリアが何となく別れているようで、女性の方の洗い場にはつい立がある。だが、大きな浴槽は混浴だ。手前に「熱の湯」、奥に「四分六分の湯」と「鹿の湯(湯滝)」があり、かぶり湯の「冷の湯」は男女別で左右にそれぞれある。「熱の湯」は浴槽の下が源泉の湧出場所で、湧き出した湯がそのまま下から浴槽を満たす。それ以外の浴槽は源泉掛け流しだそうだ。

大浴場入口の番台。
向かって右側が女湯の入口、
左側が男湯の入口。

大浴場は総ヒバ造り80坪の「千人風呂」。
手前の「熱の湯」は足下から源泉がそのまま湧出する。
(写真提供:国民温泉 酸ケ湯)
 ここには独特の入浴方法がある。冷え性の場合には、原則としてまず「熱の湯」に5分ほど入り、次に「四分六分の湯」にやはり5分ほど、「冷の湯」を頭からかぶり、「鹿の湯」を3分、そして再び「熱の湯」に3分ほど入ってあがる。
 「熱の湯」に入ってみた。白濁している湯を口に含むと、ものすごいすっぱさだ。泉質はその名のごとく酸性泉。掲示してある温泉分析書には「酸性・含二酸化炭素・鉄・硫黄−アルミニウム−硫酸・塩化物泉(硫化水素型)」とある。効能は神経痛、リューマチ、冷え性、胃腸病、婦人病一般、外傷などだが、高度の動脈硬化症、ガン、重症の脚気など入浴してはいけない病気もある。それだけこの温泉は体に対しての影響があるということなのだろう。10日間ほどの湯治でさまざまな病気に効果があると、古くから言われているゆえんだ。最初は混浴ということで気恥ずかしかったが、大きな浴槽にゆったりとつかっていると、もっと別の感情、人といることの不思議な幸福感が沸き上がってきた。
COLUMN
 夏には緑の葉が山いっぱいに萌える十和田八幡平の自然だが、冬には全山が雪に埋もれる。通年で営業ができるようになったのはつい20年ほど前のことだそうだ。暑さが厳しい土地には暑い時季に、寒さが厳しい土地には最も寒い季節に行くと、その土地のことがよく分かると聞いたことがあるから、今度は、真っ白い世界の底に沈んでいる時にこの土地を訪れてみたい。雪中の沈黙の中で湯につかった時、どんな気持ちになるだろう。
(取材:岩間靖典)
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