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HOME 温泉メカニズム体験記 第19回 東京都 麻布黒美水温泉
第19回 東京都 麻布黒美水温泉
 東京には「黒湯」と呼ばれる湯が存在している。まさしくその名の通り真っ黒な醤油のような湯色。そしてその多くは庶民が利用する銭湯の湯として、長く親しまれている。
※写真:「麻布黒美水温泉 竹の湯」の浴槽
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六本木ヒルズお膝元の温泉

「竹の湯」は昔ながらの銭湯

温泉だから、
成分表もしっかり表示
 東京23区内に温泉がある、と言うとたいていの人はびっくりする。東京がもつ「雑然」「あわただしい」といったイメージと、温泉の、ゆったりとリラックスするイメージがつながらないからだろう。
今回訪ねた東京の「温泉」は、そんな東京のまさに最先端、六本木ヒルズの目と鼻の先に存在していたのである。
一般的に東京の黒湯は銭湯が利用していることが多い。そんな背景もあり、地元の人はその存在を知っていても、あまりに日常的すぎて話題になることがなかったのだ。今回は、そんな銭湯の中でも温泉としての認可をとって営業している、「麻布黒美水(あざぶこくびすい)温泉 竹の湯」を訪ねてみた。

開店を待つ近所の人々
温泉の認可をとっている、といっても昔ながらの銭湯だから、入浴料は東京都規定の400円。公衆浴場なので入湯税もかからない。芸能関係者や外国人が多く集うという麻布十番の中心部から徒歩約5分、都会の真ん中の温泉である。しかし通りから1本入ると昔ながらの町並みが続き、竹の湯の前にも開店を待つ近所のお年寄りが数人いて、どこか懐かしい風景を描き出している。
毎日使う「銭湯」だからこそ信頼が一番

銭湯によくあるペンキ絵の富士山ではなく、
タイル絵の帆船
 そんな風景を横に見ながら裏手へ廻り、開店前のあわただしい「釜場」へお邪魔する。木や石鹸の匂いが混ざった、どこか郷愁を誘う「銭湯の香り」が鼻に心地よい。
竹の湯が温泉の認可をとったのは平成14年。内湯が増え、一人暮らし向きのアパートでも風呂付きが多くなって、ここ竹の湯でも苦しい経営が続いた。そんな中で、温泉の認可をとることで、少しでも差別化をはかり、また「温泉」として興味を持ってもらえれば、という気持ちもあった。それに「いろんな温泉に入ってみたけどうちの湯が一番いいね」という言葉どおり、竹の湯の黒湯の一番のファンであったのがここのご主人だったのだ。
客商売は信頼を失うとアウト、という。お客様に「気持ちよかった」といって帰ってもらいたい。「お客様からありがとうとか、お世話さまとか感謝される商売なんて、あまりないじゃない?そう考えると恵まれている商売だよね」。
だから浴槽の湯も毎日抜いて掃除する。とにかく掃除は徹底的。都の条例に従い最低限の塩素も入れている。
温泉地によっては湯に手を加えないため沈殿物が多いところもあるが、「ここは温泉だけど、毎日使う銭湯なんだから、清潔にして気持ちよく入ってもらわなければ」という。つまり「日常の空間」である、ということを大切にしているのだ。
まろやかな湯ざわりがクセになりそうな黒湯

「黒湯」まさに真っ黒
 15時半の開店時間となった。表へ廻り、銭湯のお客として湯に入ってみる。
今回の取材は、「タオル、石鹸、シャンプー、垢すり、歯ブラシ」など銭湯セット持参。
ご近所のお年寄りに混じって、おしゃれなお姉さんがブランドのバックを持って来ているのも、土地柄らしく面白い。小さな子供がお湯を飛ばして叱られたりしているのも、最近はあまり見られなくなった銭湯独特の懐かしい光景だ。
空いているカランの一つへ。地下水を使っているという上がり湯も茶色い。身体をよく流していざ湯船へ。湯船はもともとは大きなもの一つだったのだが、うめて温度が下がるのを嫌がる人もいることから、真ん中あたりで後から区切ったそうだ。
湯船の湯は、真っ黒。泉質はナトリウム−炭酸水素塩冷鉱泉。黒さの理由は、太古の植物が変化した物質(泥炭)や海底の泥、火山灰などが地下水に溶け出したためといわれている。浴槽内の段差も見えないから、手すりにつかまって恐る恐る入る。源泉の湧出温度は17.8℃のため、沸かして使用している。確かに浴槽内部の温度計も43℃あたりを示している。江戸っ子好みの熱い湯だ。だが、入ってみるとあまり「アチチ」という感じではない。
ゆっくりと座っていると、ちょうどよい温度である。湯に尖がった感じがなく、まろやか。
「本当は源泉を入れてうめてくれたほうが湯が溢れるから新鮮でいいんだけど」とご主人は言っていたが、あまりうめる人はいないようだ。
足の先からじんわりと温まってくるのを感じる。とにかく湯ざわりが気持ちよいので、ついつい湯の中で身体をさすったり、マッサージしたりしてしまう。
この湯、1日のうちでも感触が違うようで、15時半の開店間際にはさらり、としているのが、夜になってくると湯が空気に触れて酸化し、「ぬる」っとした感じが出てくるそうである。「お客さんも好みによって分かれている」という。
湯切れのよさにびっくり!

ここから源泉水がでます
 湯ざわりがよいのでつい長湯してしまいそうになるが、体が温まりやすい分、のぼせやすいそうなのでそこは気をつけて、数回に分けて身体や髪を洗うのと交互に湯に入った。
浴槽の湯は、まろやかだがさらり、とした独特の感触。浴槽内のカランから出ている源泉のほうがややぬるっとした感じがする。併設のサウナから出てきた人の中には、このカランから源泉水を桶にとって顔を洗っている光景も見られた。まねをしてみたら、顔がつるっとして気持ちがよかった。
びっくりしたのは湯上りである。とにかく湯切れがよくて、タオルでひと拭きすると、身体がサラリとする。「今日はなんでこんなに帰り支度が早いのか」と不思議だったのだが、合点がいった。身体の中はホカホカと温かいのに、汗がいつまでもダラダラと出ないから、服を早く着られるのだ。
外にでると麻布十番の町も夕暮れ。春とはいえ肌寒い風が吹いてきたが、身体の芯がしっかりと温まっていて、寒さは感じない。というよりほてった頬に風が気持ちよいくらいだ。
風に当たってもぞくっとしない、湯冷めしにくい、というのが温泉のよいところだとつくづく思う。この湯を銭湯として日常的に使えるなんて、ご近所の方はうらやましい限りである。
ご主人の言葉で印象に残ったものがある。
「温泉も生ガキと同じなんですよ」。体調が悪ければ新鮮な生ガキでも当たることもあるし、そもそも食欲がなければ食べたいと思わない。温泉もそれと同じで「自分の体調を考えて、身体に合ったもの、自分が良いと思ったものに入ればいいと思いますよ」。なるほど、実感。
COLUMN
 十番には老舗の蕎麦屋があるので、湯冷めをしないのをいいことに寄り道した。
しかし黒湯ですっかり「つるつる」になった指先では箸がすべってお蕎麦がうまくつかめない。帰りのバスに乗るときも小銭がうまくつかめない。家に帰って忘れぬうちにメモをと思ったらペンがすべる・・。思わぬオマケつきの黒湯体験だった。
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