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第23回 兵庫県 有馬温泉
 六甲山地の北側、標高360メートルにある有馬温泉。大阪や神戸からほど近いこと、神話の時代から知られていたこと、それに金泉と銀泉という主に2種類の泉質が楽しめることから、関西はもちろん日本でも最も有名な温泉の一つだ。
※写真:有馬温泉に入るルートの一つは、神戸電鉄有馬線。ゆったりとした情緒を感じる。
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神話の時代から豊臣秀吉を経て現在へ

阪神淡路大震災によって出土した、
秀吉の湯殿の遺構が見学できる
「太閤の湯殿館」。
  宝塚からならバスで30分、大阪からも1時間以内という距離にあるため、近代以降もこれほど多くの人が訪れた温泉は、そう多くはないだろう。明治時代以来、政治家、文化人から外国の賓客までたくさんの人が有馬温泉の湯を体験しにやって来ている。しかし、その歴史をさらにさかのぼれば、はるかな神話の時代から人々が温泉を利用していたことが分かる。
 有馬温泉の鎮守である湯泉(とうせん)神社には、泉源を最初に発見したのは、3羽の傷ついたカラスが温泉で治癒した様子を見た大已貴命(おおなむちのみこと)と少彦名命(すくなひこなのみこと)の神であったとの伝承がある。7世紀頃には、舒明(じょめい)天皇が有馬で入浴を楽しんだという記述が日本書紀にあり、古代の政権のトップまでもが温泉を体験していたことになる。8世紀頃の僧・行基、11世紀頃の僧・仁西による有馬温泉の整備の記録もある。時代を経る中で、天災などで荒廃した有馬温泉が何度もよみがえってきたことがうかがえる。
 そうした中で、現在の有馬温泉に直接つながる発展の基礎をつくったのが、豊臣秀吉だ。戦場での疲れを癒すために有馬温泉を愛用しており、大火や戦乱で荒れ果てた有馬温泉を徹底的な改修工事でよみがえらせたのだという。この伝承は、先の阪神淡路大震災の復興のために、有馬の中心にある極楽寺を立て替えた際に事実だったことが明らかにされた。書庫立て替え工事によって、秀吉の「湯山御殿」が発掘されたのである。「太閤の湯殿館」ではその様子が復元され展示されている。
街のあちらこちらに泉源が見られる
 街は六甲山の中腹に位置していて、有馬川の支流、六甲川と滝川に囲まれ、ほとんどの道は坂になっている。これらの細く曲がりくねった坂道の途中にいくつもの源泉ある。
 天満宮の境内にある天神泉源、炭酸水が湧き出る炭酸泉源、盛装した女性がその場に立つと温泉が嫉妬するという妬(うわなり)泉源、「太閤の湯殿館」前飲泉所の太閤泉、その他に有明泉源、極楽泉源、御所泉源などがある。また、山すその道に、「鳥地獄」と書かれた古い石碑が見られる。往古、ここに温泉の炭酸ガスが吹き出して鳥が死んだことを示す名残りだ。「虫地獄」と書かれた同様の石碑も近くにある。

この「極楽泉源」は、
かつて豊臣秀吉が作らせた湯殿へ
「金泉」を送っていたと言われる。

有馬にいくつかある泉源の一つ「御所泉源」。
もうもうと湯気が上がる釜のようだ。
 有馬温泉の大きな特徴は、鉄分と塩分を含み黄土色をした温泉「金泉」と、炭酸とラジウムを含む無色透明の「銀泉」の2種類の温泉を楽しめることにある。
 金泉には、塩分が多く含まれているために保湿効果が高く、メタ珪酸という物質によって肌触りがなめらかにもなる。殺菌作用もあり、感染性皮膚疾患や慢性湿疹に効果がある。また、カルシウムイオンが豊富なことで、アレルギー性皮膚疾患、慢性湿疹、じんましん、傷ややけどへの効果もある。
 銀泉には二酸化炭素泉と放射能泉(ラドン泉)があり、二酸化炭素泉の方は、高血圧症、末梢動脈閉塞性疾患、機能性動脈循環障害、機能性心疾患に効果がある。こちらの源泉は飲用によって食欲増進の効果もある。放射能泉の方は、吸い込むことで体の自然治癒力を高める。
 街にはそれぞれの源泉を使った公共浴場の「金の湯」と「銀の湯」があり気軽に有馬の温泉を体験できる。

路傍の「鳥地獄」と書かれた石碑。
昔、温泉ガスで小動物が
死んだ場所だという。

金泉を楽しむことができる
有馬温泉の公共浴場「金の湯」。
足湯と飲泉所が建物の外にある。

炭酸泉を気軽に楽しめる公共浴場は「銀の湯」。
金の湯との共通入浴券もある。
銀泉と2種類の金泉が楽しめる宿
 今回、実際に温泉を体験したのは「銀水荘別館 兆楽」。ここにも金泉と銀泉があるが、金泉にも2種類の泉質がある。
 内湯に付属した露天風呂の金泉は、兆楽の敷地内から湧出している、含鉄−ナトリウム−塩化物強塩泉。リチウムを多く含んでいて、気持ちを安らかにする効果もあるという。色はかなり赤味が強い。

銀泉と2種類の金泉の
3種類の泉質を体験できる
「銀水荘別館 兆楽」。

兆楽の内露天風呂の金泉。
湧出時には透明だったものが
空気に触れるとこのような色になる。
  もう一つは、クヌギ林の中に建つ露天風呂「櫟(くぬぎ)の湯」にある金泉で、泉質は含鉄・二酸化炭素−ナトリウム−塩化物強塩泉で、炭酸と塩分が豊富だ。色は黄色っぽい。こちらの湯は、兆楽のすぐ近くにある銀水荘の本館敷地から自噴湧出している。飲用の適応症として、どちらの金泉も慢性消化器病、慢性便秘、貧血が挙げられている。

兆楽のクヌギ林の中に建つ露天風呂「櫟(くぬぎ)の湯」の入口。
  これらの金泉以外は、明治期に開発された新有馬温泉と呼ばれる源泉の流れをくんでいる本館からの銀泉を使っている。ラジウムの量が非常に豊富だ。
 「櫟の湯」は、建物を囲むケヤキの林の中に離れて建てられている。ケヤキでできた解放的な湯殿に、大きな金泉と銀泉の浴槽が並んでいる。銀泉の方の浴槽は端に深さ120センチの立ち湯がある。また、別に深めのジャグジーの浴槽があり、ここには銀泉が満たされている。ジャグジーで湯をかきまぜることで、呼吸器からより多くのラドンを吸収できるというわけだ。

「櫟の湯」には 金泉、銀泉との他に銀泉のジャグジーもある。
  銀泉の方は、冬の外気に対して初めはちょっと熱い感じがするが、さっぱりした感じが気持ち良い。金泉へ移ると、今度は全身を包まれるような暖かさを感じる。湯は鉄錆のような臭気があり、味はたいへんにしょっぱい。相当に塩分が含まれているのが分かる。浴槽の底は、塩分と鉄分が沈澱しているのが足の裏に感じられる。
 太陽光と風、それに豊かな複数の泉質を肌に浴びることで、温泉の効果が幾重にも相乗することだろう。

朝日が当たって輝く金泉の湯。
こちらの方が黄色っぽい。

その名の通り銀色に輝くようなラジウム泉の銀泉。
深さ120センチの歩行湯もある。
COLUMN
 日本の中心的な大都市のいくつから、これだけ近い場所にありながら、有馬温泉は不思議と静かで落ちついた雰囲気がある。有馬温泉に乗り入れる神戸電鉄有馬線も、どこかのんびりとした情緒を感じさせる。しかし、ここには、古代から現代までの長い歴史の中で、多くの災害など困難を克服してきた秘められた力強さもあるに違いない。そう思うと、ゆったりと温泉につかりながらも力が湧いてくるような気がした。
(取材:岩間靖典)
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