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第24回 島根県 玉造温泉
 宍道湖の南岸にある玉造温泉は、奈良時代から知られる名湯で、玉造の名は、古代の「曲玉」の製造地であったことに由来する。一千年以上も昔の人々が入った、豊富な湯量を誇る芒硝泉を体験した。
※写真:早朝のJR山陰本線玉造駅。風情のある木造の駅舎に曲玉のマークが見える。
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中国地方の大トロイデ火山帯の麓

玉湯川には2カ所に足湯があり、
誰でも利用できる。
写真の手前側に「ぬるめ」の表示がある。

源泉からそのまま掛け流しにしているので、
吐出口は泉温が70℃近くあるようだ。
 鳥取県の西に、中国地方のトロイデ(鐘状)火山「大山(だいせん)」がそびえている。この大山火山帯は県境を越えて島根県にも深く入り込んでいて、日本海に向かって斜面を形成している。そのため、この火山帯の麓には、いくつもの温泉が湧き出している。その1つが宍道湖の南岸に位置する玉造温泉だ。
 しかし、この一帯はこうした地形の特徴よりもむしろ、神話の故郷として有名であろう。玉造の町は、山陰本線の上で出雲と安木のちょうど中間点くらいに位置しており、出雲大社をはじめとした北出雲観光の要所だが、意外にこじんまりとした落ち着きを見せている。
 そんな玉造の町を象徴するような、木造で懐かしい風情の玉造の駅舎から、少し離れて温泉街がある。山陰本線に対して直角に流れて宍道湖に注ぐ玉湯川の両側に旅館が並んでいる。この細い川は、温泉街のあたりではとてもきれいに整備されていて、川岸は遊歩道になっている。この遊歩道に2カ所、足湯がある。
 河原に長いベンチがあり、その前に細い水の流れがある。一見すると川の流れの一部のようだが、これが源泉掛け流しの足湯なのである。湯の吐出口には「温泉70℃」と書いてあるが、ここから流れ出て自然冷却で足湯に良い温度になるのだろう。通りすがりの人が足をつけている様子が見られた。
古代の人々が湯に入り宴を張った場所?
 玉造駅の駅舎にも、玉湯川の橋の欄干にも、曲玉のマークが付いている。それは、ここが古代の装身具「曲玉(まがたま)」の生産地だったからだ。このあたりは、今でもメノウ細工が特産品になっている。

遊歩道として整備されている玉湯川に沿って温泉街が広がる。
橋の欄干にも曲玉のマークが。
 出雲大社に近く、曲玉の産地で、しかも名湯がふんだんに湧き出すのだから、古代から人が集まらないわけがない。実際、奈良時代に書かれた『出雲風土記』に「川辺の出湯」として、玉造温泉が登場する。そこには大略「川辺に湯が湧き、市が立ち、老若男女が酒宴を楽しんでいる。この湯に入れば皆美しくなり、あらゆる病気がたちどころに治る」と書いてあるそうだ。川に沿って歩いていると「近年まで河原に石囲いの露天風呂があり、その名残りをとどめていた」という場所があった。岩が侵食された河原の様子が、いかにもそうした場所にふさわしく見えた。

『出雲風土記』の「川辺の出湯」として記されている場所の跡。
近年まで石囲いがあったという。
 そんな古代の名残りとは正反対に、モダンなデザインの建物がある。玉造温泉の共同浴場「ゆうゆ」だ。観光客だけでなく、地元の人も利用するコミュニティー・センターの役割もあるようだ。この建物のすぐそばに、源泉の1つを見つけた。囲いの中に、井戸をコンクリートでふさいだような場所があり、湯気が吹き出している。看板には「1日156t、泉温70.8℃、地下80mから自噴している」とある。

共同浴場「ゆうゆ」は、温泉街の中心に
びっくりするようなデザインを見せている。


玉造温泉に十数カ所ある源泉の1つ。
1日156t、泉温70.8℃、
地下80mから自噴している。
120坪の源泉掛け流し芒硝泉は圧巻

玉造温泉の代表的な宿の1つ「長楽園」。
奈良時代初期に家祖がこの温泉を開いたという。
 今回入った湯は、玉造温泉の代表的な宿の1つ「長楽園」の露天風呂。長楽園は、玉造温泉を奈良時代に開いた長谷川俊方という人の子孫が、連綿と湯の管理を続けた後、明治になってこの商号で旅館業を始めたという。その歴史も1万坪あるという庭園もすばらしいが、圧巻は何といっても1909年に完成した120坪もある大露天風呂だ。

広さ1万坪の庭園内のトンネルをくぐると、
特別な場合にだけ使われる離れがある。
 面積は120坪。ほぼ四角い露天風呂の2面は建物に囲まれ、2面は石垣に囲まれている。脱衣所から見て真正面の石垣の竜の彫刻があり、ここが湯の吐出口になっている。脱衣所からはかなりの距離がある。泳ぐようにしてそこまで近づくと、滝のように流れ出る湯の「滝つぼ」にあたる部分は、柵で囲われて人が近付けないようになっている。「源泉72℃」と書かれた看板がある。なるほど、近づくと湯が熱くなる。

1909年に完成した120坪という大露天風呂。
深さは90cmある。

泉温は72℃の源泉掛け流しだが、
外気にさらされて42℃になる。
 毎分160Lという湧出量だが、この露天風呂を満杯にするには22時間55分もかかるそうだ。それでも、尽きることのない湯は源泉掛け流しだという。泉温は、冬は自然冷却で、夏は自然冷却に加えて空中に噴出させることで、入浴にちょうど良い温度になるようにしている。

日本庭園の巨大な池が、そのまま露天風呂になっているかのようで、圧倒される。
 泉質は、ナトリウム・カルシウム−硫酸塩・塩化物泉で、芒硝性苦味泉の性質を持っているので、リウマチ、動脈硬化症状、高血圧、外傷に良いとされる。
 飲泉用の源泉があるので含んでみた。苦味泉というが、苦味は感じず、何かある種のスープのような味がした。かすかににおいがあるが、無色・透明だ。
 しかし、何よりも、入った瞬間からしみ込んでくる、じんわりとした温かさがすばらしい。あくまでも広い湯につかっている自分が何やらいじらしく思えて、不思議な癒され方を感じた。
COLUMN
 「近年まで河原に石囲いの露天風呂があり、(出雲風土記に描かれている光景の)名残りをとどめていた」という河原を見ながら、しばしたたずんだ。一千年以上も前に、まさにこの場所で、湯に入り宴を開いていた人がいたのかと思いながら。もし、この目の前の河原がその場所ならば、奈良時代もそんなに遠くないじゃないか。そう考えると、自分が過去から確かにつながっている存在なのだと思えて、何とも楽しい気分になった。
(取材:岩間靖典)
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