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第25回 兵庫県 城崎温泉
兵庫県北部に位置し1400年の歴史をもつ城崎温泉。7つの共同浴場と旅館で、保温効果の高い塩化物泉が体験できるこの小さな街には、温泉による健康増進のアイテムがあふれていた。
※写真:北上してきたJR山陰本線が西へ向かう曲り角にある城崎温泉駅。
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兵庫県は、瀬戸内海から日本海まで中国地方の東側を縦断するように位置している。その真ん中を東西に走るのが中国山地で、ここが分水嶺つまり降った雨が南側の瀬戸内海へ流れるか北側の日本海へ流れるか別れる地点となる。兵庫県の南側には有馬温泉があり、中国山地を挟んで反対側、日本海を望む地にある名湯の1つがこの城崎温泉だ。
駅前にある飲泉所。
街には他にも自由に利用できる飲泉所や
足湯が何カ所かある。
円山川の支流、大谿川(おおたにがわ)
に沿って、とても風情のある温泉街が続く。
中国山地から北へ流れる円山川が、もうすぐ日本海へ達するほんの少し手前に支流の大谿川(おおたにがわ)が、ゆったりと流れている。この川が円山川に合流する地点が、ほぼ城崎の温泉街になっているのだが、両岸が石垣で整えられ柳が川面に映える様子はとても風情がある。古くから文人墨客に親しまれているのも、このゆったりとした情緒のせいだろう。
街外れにある大師山にロープウエイで登ると、眼下に一筋に連なる温泉街が見え、その先には円山川が山々を切り分けるようにして日本海へ注ぐ絶景が望まれる。
街外れからロープウエイで大師山に登ると、
日本海へ注ぐ円山川と城崎の街が望める。
城崎温泉は、西暦717年に道智上人という人が発見したと伝えられており、鎌倉時代には後堀河天皇の姉が入浴したという歴史があり、非常に古くから名湯「但馬の湯」として知られていた。この歴史のある「御所の湯」や江戸時代から有名だった「一の湯」など、かつて城崎の湯は町営の共同浴場が中心だった。内湯のある旅館もあったが、1950年代にボーリングが成功したところから、旅館も一気に増えたそうだ。
ロープウエイ発着所近くにある
「城崎温泉元湯」。
もうもうと湯気が上がる。
城崎温泉元湯近くの足湯と、
奥に見えるのは源泉の揚水ポンプ施設。
城崎温泉を体験する魅力の1つは、共同浴場つまり外湯を楽しむことにある。現在、町には歴史あるもの含めて7カ所もの外湯があり、どれも新しく整備されたものできれいだ。
駅前からこれらの外湯を巡ってみる。まず駅舎温泉とも呼ばれる「さとの湯」は、大きな足湯が建物の外にあり、メインは展望露天風呂。泉源から地蔵尊が出たといわれるところから名前が付いた「地蔵湯」は、建物もお寺のような雰囲気がある。「一の湯」は、江戸時代の中ごろに湯治の医者が天下一の湯だと言ったことからの名前で歴史のある外湯だ。「御所の湯」が、後堀河天皇の姉である安嘉門院の入湯伝承がある湯。「鴻の湯」は、コウノトリが足の傷を癒したとの伝承がある。古くからの温泉には、不思議と共通して「動物が入浴しているのを見つけた」という伝承があるのが興味深い。「まんだら湯」は街外れの山の麓にあり、城崎温泉を開いた道智上人の祈願で湧き出したと言われている。
外湯「さとの湯」。
外湯「地蔵湯」。
外湯「柳湯」。
外湯「一の湯」。
外湯「御所の湯」。
外湯「鴻の湯」。
外湯「まんだら湯」。
街中にこれらの外湯が点在しており、さらに足湯や飲泉所がいくつもある。もちろん旅館も軒を連ねており、街のすべてが温泉一色といった感じになっている。こうした風景はどこでも見られるものではなく、温泉街独特の、まさに非日常の景色だといえる。そして、この非日常こそがストレス解消に有用な転地効果をもたらしている。
さて、外湯に入ってから冷たい外気に触れると、いつの間にか体がポカポカと温まっていることに気づいて驚いた。これが塩化物泉の保温効果だ。塩の粒子が皮膚に付着して保温効果を高めることが実感された。
外湯だけでなく、もちろん内湯の充実した旅館がたくさん並ぶ城崎温泉だが、とりわけ壮麗な構えを見せるのが、創業から150年を経ているという老舗旅館「西村屋」本館だ。門内には、見事な日本庭園とそれを取り囲む日本建築がある。いくつかある内湯もとても凝った造りだ。
純日本風の構えを見せる、創業150年の老舗旅館「西村屋」本館。
この内湯にゆったりと入ってみた。泉質はナトリウム・カルシウム−塩化物・高温泉で、城崎温泉の湯は、外湯も同じ泉質のようだ。ただ、源泉によって弱アルカリ性か中性かの違いはあるらしい。
塩化物泉は食塩泉とも呼ばれ、先述したように塩の粒子が皮膚に付くため、非常に優れた保温効果がある。無色透明で、においは感じない。口に含んでみるとかすかに塩味を感じる。湯の感触は、なめらかというよりは、ジワジワと温かさが肌に浸透してくる感じがする。疲労回復などの他に、神経痛、筋肉痛、運動障害、創傷、婦人病に効用があるとされる。
西村屋の内湯「尚の湯」からは中庭を望める。
西村屋の大浴場「吉の湯」の外にある
風情あふれる露天風呂。
風雅な中庭を眺めながら大きな湯舟に入っていて気づいたのは、この街には温泉のもつ健康増進のアイテムがしっかりと揃っているということだ。温泉の湯そのものを体験するだけでなく、温泉街を歩けば飽きることなく適度な運動になり、山に囲まれて日本海を望む絶景と自然に接し、名産のカニなどをいただく。
温泉療養の最長期間と言われる3週間とまではいかなくても、せめて1週間くらい滞在したら、どんなに体に良いことだろう。
「暗夜行路」の作者、志賀直哉がケガの療養のために城崎温泉を訪れたのは大正2年の10月。大正6年に短編小説『城の崎にて』を書いている。私は、夕暮れ時の温泉街をぶらぶらと歩いて、小さな本屋を見つけて入ってみた。そこで文庫本の『城の崎にて』を見つけたので購い、夜、褥中で読んだ。まったく、自分が20世紀初頭の但馬の温泉地に滞在している気分になった。大谿川の風情が、当時とそれほど変わっていないのではないか、と思えたからだ。
(取材:岩間靖典)
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