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第28回 宮城県 鳴子温泉
 奥羽山脈の火山活動の恵みを受けて、9種類の泉質、400本近い源泉をもつ鳴子温泉郷は、5つの温泉群を含んでいる。その中で古く、温泉街の情緒もある鳴子温泉を体験した。
※写真:JR陸羽東線の鳴子温泉駅。駅舎の下に足湯があり、着く人も去る人も楽しんでいる。
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仙台湾に注ぐ江合川の源に広がる温泉郷
 大平洋に口を開ける仙台湾の石巻港。ここには北上川が注いでいるが、地図でさかのぼってみると、川はすぐに西に分かれて江合川となる。川に沿うように石巻線の線路が走る。川も線路も小牛田という町のあたりで東北本線の線路を直角に越え、川は荒雄川とも呼ばれるようになり、線路は陸羽東線と名前を変え、奥羽山脈に向かって内陸へと進む。やがて川は鳴子付近で源流を集め、線路はたくましく峠を越えて山形県へ至る。
  鳴子付近は、川を出入り口として、周囲を標高1000m前後の低いながらも火山性の山々に囲まれている。ここに東から順に川渡温泉、東鳴子温泉、鳴子温泉、中山平温泉、そして少し離れた北に鬼首温泉と5つの温泉があり、これらの温泉群を合わせて鳴子温泉郷という。
  「続日本後記」に、この地で承和4年(西暦837年)に噴火があり、熱湯が吹き出したという記述があるそうで、その温泉噴出の音が雷にようなごう音だったため、神の怒りを鎮めるための神社を建てたという。この神社が鳴子温泉にある温泉神社で、古くから都にも知られていたことがうかがえる。この神社の境内には大きな石があり、説明文には「湯神大石(ゆのかみのいし)」とあった。この石は西暦835年の大噴火で、斜面を激しく下る火砕流とともに落ちて来た石だということで、温泉が火山活動と深く結びついていることを感じさせてくれる。
共同湯も楽しい温泉情緒の街

鳴子温泉に4カ所ある足湯の一つ。
都会にもこんな足湯があったらどんなに良いだろう。
 鳴子温泉の駅を出ると、駅舎の下に足湯が2つある。鳴子に着いてまず足湯を体験する人、鳴子の旅を終えて名残りに足をつける人などで、訪ねた時はいつも誰かが入れ換わり使っていた。足を湯から上げると、多くの人が、まるで赤いソックスでもはいているかのようになっていて、お湯の血流循環の効果がありありと分かる。
  この足湯の場所に、ズラリと木の札が掲げられている。これは「湯めぐり」をするための案内板。「湯めぐりチケット」というものを購入すると、旅館と共同浴場の日帰り入浴が割り引き料金で利用できる。それぞれの旅館と共同浴場にも同様の案内板が掲げられていて、利用の目印になるものだ。案内板にはそれぞれ、泉質やお湯の特徴、それに適応症が記されている。

駅の足湯に掲げられている、
旅館と共同湯の泉質を示す案内板。

案内板は、それぞれの旅館や
共同湯の入口にも掲げられていて
泉質や適応症を示す。
 鳴子温泉郷全体では泉質が9種類、源泉は400本近くにもなるという。ここ鳴子温泉にも数種類の泉質がある。鳴子温泉は5つの温泉群の中でも特に温泉街の情緒が感じられ、共同浴場も2カ所ある。1つは「早稲田桟敷湯」という名で、戦後間もなく、ボーリング調査に実習にやって来た早稲田大学の学生たちが掘り当てた湯だ。一風変わった建物が目を引く。もう1カ所は「滝の湯」という名で、流れ落ちる打たせ湯が特徴だということだ。まずはここに入ってみた。

温泉街にある一風変わった建物は
共同浴場の一つ「早稲田桟敷湯」。

「早稲田桟敷湯」の裏で見かけた配湯槽。
源泉の雰囲気を感じる。
 建物の表側は素朴で特に変哲もないが、裏側の高い窓に何本も木の樋が突き刺さるように入っている。裏は温泉神社の高台に通じる斜面で源泉があり、ここから木の樋で水平に建物に湯を引き入れているのだ。さて、中に入って湯殿の扉を開けると、なるほど外から見た木の樋が窓から中に突き出して、湯が滝のように湯舟に落下している。この湯を体に浴びればマッサージ効果も期待できるわけだ。湯舟は大小1つずつ。小さいほうはややぬるめだが、大きい方の湯舟の湯は、ものすごく熱い。旅行者だろう、外国人の青年がこの湯に足をつけてびっくりしていた。白濁したこの湯は、温泉神社の千年の歴史を持つ源泉「御神湯」を使っている。

共同浴場「滝の湯」はその名の通り
大きな樋からお湯が落ちて浴槽に注いでいる。
「滝の湯」の裏側に源泉があり、そこから木の樋が建物に突っ込んでいる。
やわらかいアルカリ泉とじっくりの硫黄泉
 温泉街がもうすぐ山に突き当たるあたりに旅館「吟の庄」がある。ここで内湯と外湯の異なった泉質を体験した。

温泉街の奥にある旅館「吟の庄」。
山に囲まれて静かな風情だ。
 内湯の大浴場の泉質はナトリウム−塩化物・硫酸塩泉・低張性弱アルカリ性高温泉。適応症としては慢性皮膚病、切り傷、やけど、虚弱児童となっている。 ごくわずかに褐色の濁りのあるほぼ透明な湯で、かすかなにおいと味を感じる。湯はやわらかい感触で、肌がとてもツルツルするのが分かる。入りやすいやさしい湯だ。湯には温泉成分の湯の花が浮遊しているのも、天然温泉ならではで楽しい。浴室も落ち着いていて、とても清潔感がある。
  この浴室の外の露天風呂は、内湯とは泉質が違う。酸性−ナトリウム・アルミニウム−硫酸塩・塩化物泉・低張性酸性高温泉で、適応症は動脈硬化症、慢性皮膚病、切り傷、やけど。泉質が違えば、見た目も入った感じも違う。湯は真っ白に濁っていて、湯の吹き出し口の石は、温泉成分のためにまるで白い粉でも塗り付けたようになっている。香りはほんのりと硫黄臭、味は鉄さびのような強烈な味がする。肌ざわりは、とてもしっかりとしていて、肌に湯が密着するような感じさえする。暖まり加減は格別で、上がってからもポカポカ感がずいぶんと続いた。

「吟の庄」の大浴場。
ほぼ無色透明のアルカリ泉で肌がすべすべする。

露天風呂は白濁した硫黄泉。
肌に密着するような感触でよく暖まる。

源泉の吹き出し口は温泉の成分で
真っ白になっている。
COLUMN
 古代の火山の噴火で湯が吹き出し、そのごう音に恐れをなして、この地の温泉神社が祭られたのだという。鳴子という地名も一説にはこのごう音から来ているそうだ。昔の人は自然崇拝のアニミズムで、森羅万象に神を見ていたから、グワーン、ガラガラ、ブワーッとなれば神の怒りと感じたのだろう。しかし、同時にそれは温泉という恵みにもなった。日本の古い温泉地を訪ねて伝説を知ると、この自然の脅威と恵みの表裏一体と向き合っていた古代人の真摯な姿に触れることができ、私もほんのちょっとだけ「畏怖(いふ)な気持ち」になることができる。
(取材:岩間靖典)
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