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第29回 山形県 銀山温泉
出羽の国の山奥で銀山が発見されたのが室町時代、その坑道から温泉が発見されたのが江戸時代の初め頃。銀山はすでに閉じられているが、仙境の温泉と知られる銀山温泉には、今も古風な木造建築が並ぶ。古き良き情緒と硫黄塩泉を体験した。
※写真:銀山温泉の入口は山形新幹線の大石田駅。ここからバスで山道を行く。
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かつては日本有数の銀山として栄えた、その名のとおりの銀山温泉。その銀山は室町時代中期の1465年に発見された延沢銀山で、以来、戦国時代を経て江戸時代の初め頃には最盛期を迎えた。その頃には、この山中に2万戸を超える人家があったという。この銀山が発展している最中の江戸時代初め、慶長年間に温泉が発見され利用も始まったのだそうだ。その後、銀の採掘はだんだんと行なわれなくなるが、温泉街はその間も発展を続けて現在に至っている。
温泉街から少し歩いて山の中に入ると、整った遊歩道の先に、銀山の坑道跡が保存されている。小さな入口から中に入ると、かなり大きな空洞になっていて、掘削機械などない昔に、鉄のノミと金づちで掘ったのかと思うと、大変な困難だったことが偲ばれる。また、採鉱は浸水との闘いだったそうで、危険な作業でもあったようだ。ここで、どのようにして温泉が発見されたのかはよく分かってはいないが、作業に従事した人たちの疲れを、大いに癒したことは間違いないだろう。
白銀の滝。
温泉街から少し歩くだけで、
山奥の風景になる。
保存されている銀山の史跡「銀鉱洞」。
中に入ることもできる。
銀山温泉があるのは山形県尾花沢市。銀山川の上流で、奥羽山脈の宮城県との国境いにほど近い。山脈を越えて少し北上すれば、鳴子温泉がある。つまり奥羽山脈を分水嶺として、東側に鳴子温泉、西側に銀山温泉が位置することになる。ここも、東北の多くの温泉と同様に、那須火山から湧き出す温泉の一つだ。
山形新幹線の大石田駅が銀山温泉への入口となり、温泉街へはバスで山道を40分入っていく。バスは、温泉街の手前で停まり、その先は一般の車両は入れないことになっているのは、温泉街の景観保護のためだろう。そして、仙境のどん詰まりに突如姿を現わす温泉街には、驚かされる。古びた石垣で堀割のようになった銀山川の両側に、木造建築の旅館が建ち並び、まるで明治か大正時代の温泉街に迷い込んだかのようだからだ。
木造建築の旅館が並ぶ街並は保存条例によって守られている。
温泉街そのものは小さく、大きな娯楽施設などがあるわけではないが、凝った造りの重層の木造建築を見て歩くだけでも飽きがこない。それでも、川のほとりに足湯があり、共同浴場も2カ所ある。1つは街の中心にある「大湯」。川沿いの道に張り出した形で建てられており、その部分だけ道路と通路が共用されたような形になっている。浴室はごく小さく素朴なものだが、こういう湯舟に体を沈めるのも、仙境の温泉体験の大きな楽しみだ。もう1つは、街の外れにある新しい建物の「しろがね湯」。新しいといっても、景観にマッチしていてしかもモダンな造りだ。2階に浴室があるが、鋭角な建物の形そのままに、浴槽も三角形で、窓からは銀山温泉を取り囲む山並が見える。
銀山川に面して張り出した共同浴場の「大湯」。
大湯の建物の通路が、
そのまま道路になっている。
大湯の浴槽。
地元の人に愛されている風情ある共同浴場。
新しくできた共同浴場の「しろがね湯」
三角形のモダンな建築。
2階に浴室があるが、
建物の形そのままの鋭角な三角形の浴槽。
能登屋旅館の建物。国の登録文化財に指定されている。
建物が国の登録文化財になっているという能登屋旅館に泊り、湯に入った。能登屋という名前は、初代が能登からやって来たことに由来するという。館内は、古い木造建築独特の、重厚で黒光りする柱や梁が見られて、それだけでも温かさを感じる。
さて、風呂は大浴場、露天風呂、それに地下にある元湯洞窟風呂などがある。泉質は、含硫黄−ナトリウム−塩化物・硫酸塩泉。適応症としては、慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、糖尿病、高血圧症、動脈硬化症、神経痛などが挙げられている。
湯は、やや黄色がかって白濁している。硫黄を含んでいるのでもちろん硫黄のにおいがするが、きついにおいではない。そして、かすかな味がある。源泉の温度が高いせいか、やや熱い感じがするが、意外に刺激はなくとても入りやすい。ゆったりとした大浴場の湯舟も、ひんやりとした外気を顔に感じながら入る露天風呂も良いが、地下にある元湯洞窟風呂も楽しい。ここは予約なしで貸し切りの家族風呂にもなる。小さな浴室の小さな湯舟につかりながら、湯に漂う湯の花を目で追っていると、外界から自分が遮断されたようで、不思議とくつろいだ気持ちになれた。
能登屋旅館の大浴場。湯は濁りのある硫黄塩泉。
露天風呂は、
さすがに極寒の季節には休みになる。
地下にある源泉の元湯洞窟風呂。
薄暗く不思議とくつろげる。
温泉発見の物語や伝承にはいろいろとあって、全国には、動物がいつしか温泉に入っていて、それを人間が見つけたというパターンが多い。銀山温泉は、銀採掘の坑道で発見されたということで、珍しい例かも知れない。その詳しい様子は記録が残っていないようだが、後の世にここが有名な温泉地になるとは、その発見者も思わなかったかも知れない。一日の疲れを温泉で癒す光景と湯に入ってくつろいでいる人の表情は、きっと何百年経っても変わっていないことだろう。
(取材:岩間靖典)
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