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第31回 山形県 かみのやま温泉

第31回 山形県 かみのやま温泉
 山形県南東部、蔵王山麓にある3万石の城下町は、美肌の湯として知られる温泉の街でもある。口に含むとちょっぴりしょっぱい名湯を、新緑のさわやかさとともに、五感をいっぱいに使って体験した。
※写真: 湯町の足湯。街中に足湯などがいくつも点在していて、湯量の多さを伺えた。
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鶴が脛の傷をいやしたのが始まり
 東北地方の大脊梁(だいせきりょう)山脈、奥羽山脈が山形県と宮城県を分ける中心は、標高 1841m の火山、蔵王山だ。この蔵王から真西に向かって、広い裾野をひたすら下ってくると、やがて東北本線・新幹線と、須川が通る谷にぶつかる。そして、須川の対岸にあるのがかみのやま温泉だ。
 この地は、羽州街道の要所なのだそうで、かつては 3 万石の城下町でもあり、町の中心には再建された上山城がある。しかし、何といっても山形県内はもちろん全国でも有数の名湯の一つとして知られている。
 上山市内には、城下町として古くから栄えていた湯町、それに新湯と、比較的新しく開けた高松、河崎、葉山などのいくつかの温泉地があり、これらを総称し駅名ともなっている「かみのやま温泉」と呼ばれている。
 発祥とされているのは湯町。かつては鶴脛ノ湯(つるはぎのゆ)と呼ばれていて、その名の由来となる伝説がある。温泉発見伝説の類型の中では例が多いと思われる鶴にまつわるものだ。室町時代、旅の僧が沼地に湧く湯に足を浸す鶴を見たという。鶴は数日で脛(すね)の傷を全快させて飛び立ったといい、これが温泉発見のきっかけになったそうだ。この場所は、現在も源泉として残っていて、街路の一画にちょっと神秘的な雰囲気のある場所となっている。

かみのやま温泉発祥の源泉。
鶴が足の傷をいやした伝説がある。
うす味のスープのような源泉
 城下町一帯は、ゆっくりと散策しても 1 時間ちょっとで回れるくらいのそれほど大きな街ではないが、足湯や共同浴場が数カ所あり、古い家並みも多く残っているので散策も楽しい。大きな格子窓のはまった古い商家などを見ながら歩くと、きれいに整備された足湯や、注意しないと見落としてしまいそうな小さな共同浴場が点在している。

かみのやま温泉にいくつかある
源泉の一つ、新湯源泉。

観音寺の手水(ちょうず)は温泉水。
石膏成分でまわりは真っ白に。
 かみのやま温泉駅から北方に行き、小さな路地を入ると坂の途中に大きな共同浴場がある。古い体育館のような建物の壁に、黒々と「下大湯公衆浴場」の文字が書かれていて、その懐かしい風情には心がなぐさめられる。この坂道の上には、赤いのぼり旗をたくさんはためかせた観音寺がある。参道の石段に手水場(ちょうずば)があるが、さすがに温泉地だけあって、手を洗うのは水ではなく、温泉の湯だ。手を洗うにはちょっと熱いくらいで、この手水鉢には源泉に含まれる石膏成分が周囲に厚く付着している。

6カ所ほどある共同浴場の一つ「中湯共同浴場」。

湯町の足湯。

湯町の足湯。

 そこから少し離れた所に、前述した湯町の源泉があり、足湯や「お湯の手洗い鉢」が並んでいる。コップも置いてあるので、飲んでみた。掲げられている温泉分析表の飲泉の適応症の欄には、慢性消化器病、肥満症、糖尿病、痛風などが挙げられている。泉温が 60 ℃以上あるため熱く、塩味と微妙なミネラル成分の味もあるせいか、うすいスープを飲んでいるようで、おいしくさえ感じられた。

湯町の足湯。


新湯の足湯。


上山城の足湯。

前川の足湯。

葉山の足湯。
 城下町を外れて西へ向かうと高松地区や河崎地区の温泉があり、さらに山の手に登ると落ち着いた雰囲気の葉山の温泉地区がある。葉山にある旅館「日本の宿 古窯(こよう)」に泊り、温泉に身体を浸した。
 古窯という名は、古代の焼き物を焼く奈良時代の窯(かま)跡が、敷地内から発掘されたことによる。古代から人が住み着いているだけあってか、気持ちの良い場所だ。小高い丘陵にあり、須川の谷をはさんで、はるか東方の蔵王まで、眼前にはまったくさえぎるものはない。最上階にある展望露天風呂からは、遠望のゆるやかな傾斜がやがて急な斜面になって一気に蔵王の頂まで続くような地勢が見渡せる。蔵王から谷を飛び越えて渡ってくる風を顔に感じながら入浴すれば、やはり蔵王の火山エネルギーを受けた温泉水が身体を包んでくれる。
 ここには 9 つの客室露天風呂と貸し切り露天風呂があり、浴槽の形や置いてある様子がすべて異なる。これらの風呂は、単にぜいたくを味わいたいというだけでなく、事情で体を人には見せたくないというお客さんにもよく利用されているそうだ。
 客室露天風呂の一つ「湯殿」に入ってみた。泉質は、他のかみのやま温泉と同じくナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉。無色・透明で、湯に鼻を近付けるとかすかに硫黄らしき香りがある。「湯殿」の浴槽は源泉掛け流しのせいもあって、泉温がかなり高い。初めは熱く感じるが、湯そのものには刺激はなく、何よりも温まり方がすばらしい。湯から上がっても一向に冷める気配がないのだ。
 季節は 5 月中旬。惜し気もないほどに萌える緑が本当に鮮やかだ。夏も秋も、もちろん美しいだろうが、すべてが真っ白い雪におおわれる冬の風情も格別なのだそうだ。

葉山地区の山の手に建つ旅館
「日本の宿 古窯(こよう)」。

古窯の展望露天風呂「蔵王の庭」。
遠くに蔵王を望む。

展望大浴場「蔵王」。
広々としてとても明るい。

大浴場「紅花風呂」の露天風呂。
石造りで舟形の浴槽もある。

客室露天風呂の一つ「湯殿」。
源泉掛け流しでいつでも入れる。
COLUMN
 温泉地では、温泉水が直接に身体に作用する効果のほかに、現地の空気や風景に触れたり、おいしい食べ物を味わうことでの転地効果も大いに期待できる。まさに五感によって、温泉の恩恵を享受できるわけだ。私は今回、五感いっぱいに温泉の効果を感じたが、夜には聴覚に特別の効用も与えられた。それは、まったく何の音も聴こえないという、つまり聴覚を使わない効果だ。そして、しーんと静かに体を横たえていると、五感とは異なる「心」によっても何かを感じることができた。それは、いろいろな想いや思い出や思考やひらめきなど、今それを書き記すには難しい事どもだった。
(取材:岩間靖典)
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