
温泉科学プロジェクトは温泉と入浴に関する情報を発信しています。
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栃木県北部、福島県との境に位置する那須温泉郷や塩原温泉郷は、北関東はもちろん全国でも有数の大温泉地帯だ。どちらも古くから温泉地として知られ、それぞれにいくつもの温泉があり、さまざまに楽しめる。秋のきざしを感じる季節に、高原の温泉を体験した。 |
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※写真:全長60mの日本最大級の足湯がある、「湯っ歩の里」。
東北本線か陸羽街道、現在なら東北新幹線か東北自動車道を、東京方面から北上する。利根川を渡り宇都宮を過ぎ、左手に奥羽山脈に連なる帝釈山地を見ながら黒磯あたりまで来れば、県境を越えて福島県に、つまり東北地方へもすぐだ。
黒磯から見て北北西方向に、那須火山帯の主峰である標高 1,915mの茶臼岳を望む。盛んに火山性ガスを噴出し続けるこの高原火山群は、言うまでもなく大温泉郷でもある。幹線の鉄道や道路からはやや奥に入るが、古くから知られている温泉地帯であるため、交通の便はよく発達している。
栃木県の最北部に位置する那須温泉郷は、西暦 630年頃に発見されたといい、猟師に追われた手負いの鹿が温泉に入ったことがきっかけになったという伝説がある。奈良時代の古文書にも那須温泉の記述があるというから、相当古い時代から知られていたことになる。
那須温泉郷の南西 20km ほどのところにある塩原温泉郷は、西暦 806 年に開かれたというから、こちらも古い歴史を持っている。明治の初め頃に塩原街道が開通して、多くの文人墨客が訪れ、現在に至っている。

那須温泉郷の鹿の湯から少し奥に入ると、温泉地方に特有の殺生石がある。
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那須温泉郷は、那須岳に向かう那須高原の傾斜地に点在している。鹿の湯とも呼ばれる那須湯本温泉から始まって高雄温泉、八幡温泉、弁天温泉、北温泉、大丸温泉と続き、一番奥にある三斗小屋温泉は標高 1,450mに位置する。
この七湯は泉質が同じではない。単純泉や弱酸性の単純泉のほかに、那須湯本温泉は硫化水素および砒素(ひそ)含有酸性ミョウバン泉、高雄温泉は硫酸塩・硫化水素泉などとなっている。
那須湯本温泉の場所には、那須温泉の鎮守である温泉神社があり、まずこの場所から那須温泉郷が開かれていったことがうかがわれる。また、谷を流れる渓流のほとりには「鹿の湯」という風情のある木造の公共浴場がある。

那須七湯の中でも最も古い歴史を持つ、鹿の湯の共同浴場。 |
湯本温泉の中心から少し外れると、たちまち高原火山群の風景が姿を見せる。ここは全国的に知られた「殺生石」のある場所だ。殺生石というのは、特殊な性質を持つ岩石の特定の名称ではない。火山地帯のガスが出ている場所にある岩石につけられた、いわば俗称だ。火山地帯や温泉地帯では、火山性の硫化水素ガスなどが吹き出している場所があり、そこでは鳥獣類や虫が死ぬ姿が見られることから、その付近にある石がこう名付けられたわけだ。
那須の殺生石が有名なのは、 800 年ほど前の伝説による。中国から渡って来た妖狐が、朝廷内を乱して追われ、この地まで来て討たれた後、その霊が石に乗り移って殺生石になったという。実際、ガスが噴出するこの一帯は、ほとんどの生き物を寄せ付けないような雰囲気がある。

鹿の湯にある「湯の素(湯の花)」の採取場。
硫黄分を沈澱させる。
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那須温泉の足湯「こんばいろの湯」。
建物の中から外まで足湯がつながっている。
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塩原温泉郷にある「山ゆりの吊り橋」と、
たもとにある共同の露天風呂「青葉の湯」。
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東北本線の西那須野駅か東北自動車道の西那須野塩原インターから国道 400号を西へ、深い谷を流れる箒川に沿ってさかのぼると、大網温泉から上流に向かって塩原温泉郷が始まる。福渡(ふくわた)温泉、塩釜温泉塩の湯温泉、畑下(はたおり)温泉、門前温泉、古町(ふるまち)温泉、中塩原温泉、上塩原温泉、元湯温泉、新湯(あらゆ)温泉と、11の温泉が続く。
塩原温泉も泉質がさまざまある。これは、湧出のしかたがいろいろだからだという。古い地層の岩の割れ目から湧き出す源泉もあれば、比較的新しい高原火山群の溶岩の中から直接湧出する源泉もあるからだ。
いくつかの泉質をあげると、大網はナトリウム−カルシウム・硫酸塩泉、門前はナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉、元湯はナトリウム−炭酸水素塩泉、新湯は硫黄泉などとなっている。これらを含めた源泉の数は 162 にもなり、北関東では随一の豊富な湯量だという

塩原温泉郷の強大な足湯施設「湯っ歩の里」。回遊式の庭園と足湯がある。 |

「湯っ歩の里」の足湯は総延長が60mにもなる。
源泉は敷地内から湧出する。
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源泉から直接引いた温泉を飲むことができる
「湯っ歩の里」の「飲泉堂」。 |
温泉郷の中心に位置する門前温泉には、総延長が 60mにもなる巨大な足湯施設「湯っ歩の里」があり、国道から見て川の向こう岸に目を引く。
この門前温泉にある旅館「光雲荘」の湯を体験した。入浴体験の前に、飲泉を体験する。紙コップについで口に運ぶと、薄い塩味とかすかな何かの味がする。おそらくいくつかのミネラル成分の味だろう。おいしい。そして、塩原温泉郷の中でも最大級だという露天風呂に体をつけた。ちょっと熱めの湯は、ナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉。神経痛、関節痛、慢性消化器病、慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、疲労回復などが適応症となっている。
水深が浅く広いので、足を前に投げ出して腰をおろし、手を後ろについて空を見上げた。伸ばした体の隅々まで湯の温かさが血流とともに駆け巡り、疲れが手足の先から逃げて行くようだった。

塩原温泉郷にある 11 の温泉の中でもにぎやかな門前温泉の旅館「光雲荘」。 |

「光雲荘」の中にある飲泉所。
この湧出口の先に長い足湯が続いている。
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「光雲荘」の大浴場。
泉質はナトリウム−塩化物・炭酸水素塩泉。 |

「光雲荘」の広々とした露天風呂「幸運の湯」。
毎分 200リットルの自家源泉を持つ。
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塩原温泉郷には清冽な湧水が出る。
門前温泉にある妙雲寺の湧出口。 |
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| 殺生石の伝説は、能や講談、マンガの題材にもなっているほど有名でスケールの大きな話しだ。日本に渡って来て美女に化け、玉藻前(たまものまえ)と名乗って朝廷を惑わせた狐は、インドから中国を経て日本にやってきたことになっている。その狐が正体を見破られて追われたのが、那須野であるというのは、また興味深い。当時は、ちょうどこのあたりが、関東平野の北の果てとして、また、噴煙を上げる那須火山帯の威容を見上げる場所として、特別視されていた場所だったのだろうか。かつての妖力も、今は温泉力として人々の癒しになっている。 |
| (取材:岩間靖典) |
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