第38回 山梨県 ほったらかし温泉
山梨県山梨市、ほぼ真北側から富士山を望む山の上にある日帰り温泉。日の出の時刻には、朝日と富士山の両方を視界に納めながら露天風呂に浸かることができる。眼下には甲府盆地が広がり、夜景もすばらしいという。肌と目で楽しむ温泉を体験した。
※写真:「あっちの湯」

日本一の名峰は日本一の火山

 「八面玲瓏(はちめんれいろう)」という言葉がある。「どこから見ても美しい」という意味だ。富士山は、まさに八面玲瓏の山容を持った山と言える。

中央本線山梨市駅の瀟洒な駅舎。
ほったらかし温泉へはここから車で山を登る。。

 日本は火山国だから、北から南までたくさんの火山があり、それらの多くが山脈を成しているが、富士山は例外的と言っていいくらいの独立峰の活火山だ。南の駿河湾から見れば、まったく突然に海からせり上がって見えるし、周囲に連なる峰がない。
それで、どこから見ても美しく整った形がいっそう際立つのだが、この形ができ上がったのには、富士山の噴火のしかたに理由がある。富士山は、山の形がすっかり変わるような大噴火をあまりしていない。その偉容に似合わず、噴火活動は意外におだやかなのだ。頂上の1つだけの噴火口から噴出する溶岩も薄く広がる性質を持っているため四方八方に流れ出し、この溶岩流と火山灰などが、少しずつたい積したために、きれいな円すい形になったわけだ。

 もちろん日本の最高峰で、標高は3776m。基底部の直径はおよそ35〜40kmほどもあり、これは日本だけでなく、世界的にも大きな火山だ。

富士山の真北に位置する山梨市

 この巨大な富士山。関東地方、中部地方のさまざまな場所から見ることができる。そして、見る角度によって美しさも異なる。東京とその周辺の県からの遠景、駿河湾の田子の浦からの圧倒的な近景、遠くでは紀伊半島からも見えることがあるという。そして、北側からは、山梨県からの近景。

 富士山の山頂から北に向かって下っていくとすると、裾野を経て、河口湖や西湖などの富士五湖にぶつかる。さらに北へ向かうと御坂(みさか)山地を登って降りて、笛吹川にたどり着く。

笛吹川は、釜無川と合流して富士川となって駿河湾に注ぐ。この笛吹川のある一帯が甲府盆地で、山梨市は甲府よりも少し上流にある。
川を越えれば、その北側はまた山地になって、いくつもの温泉が湧き出している。富士山の東側には箱根の一大温泉地があり、北側には笛吹川を見下ろす温泉地があることになる。

 笛吹川のほとりにある、中央本線の山梨市駅から、車で西北に山を登って行くと、「山梨県笛吹川フルーツ公園」がある。特産の果物の販売と「新日本三大夜景」と呼ばれる市街地の眺め、それに足湯もある。

山梨市駅からほったらかし温泉への途中にある
「山梨県笛吹川フルーツ公園」。
フルーツ公園の中にある足湯。
泉質はほったらかし温泉と同じアルカリ性単純温泉
朝日と富士山をいっぺんにながめる

 このフルーツ公園をさらに上がって行くと「ほったらかし温泉」がある。
 1999年に、まず「こっちの湯」が開場した。人気が出て手狭になり、2003年にさらに「あっちの湯」が開かれた。

山の上にあるほったらかし温泉の休憩所や
軽食を食べるスペース。朝定食が人気。
今回、体験したのは「あっちの湯」。時間は、早朝の6時前。ここは日の出の1時間前くらいから営業を始めている。それは、天気が良ければ露天風呂から日の出と早朝の富士山がいっぺんに両方見られるからだ。
あっちの湯の入口。スタッフらが
自分たちの手で作ったという湯屋。
ほったらかし温泉に2つあるうちの
「あっちの湯」へ降りる階段。
露天風呂は上下2段の浴槽がある。
この四角い浴槽が上にある。
内風呂ももちろんある。
洗い場もきれいに整っていて、広い。

 ちなみに、雨が降ったら、自分で勝手に備え付けの笠をかぶる。良い意味でほったらかしてくれるわけだ。
 こんな早い時間でも、もう露天風呂にはかなりの人が入っている。夜景はすっかり消えて、空が明るくなってくると、雪をかぶった富士山が右手にはっきりと見える。真北から見る富士山の姿だ。

 やがて左手の低い山の上に朝日が昇ってくる。湯も入浴客の顔も、光を浴びてきらきらと輝いて見える。
 春になったとはいえ、早朝の山上はまだまだ寒いが、顔に当たる空気はすばらしい気持ち良さだ。そして、視界には富士山と昇り来る朝日がある。


春になっても早朝の山上は冷え込む。
広場にはたき火があった。
もうもうと湯気の上がる露天風呂の右手に、
春先でも雪をかぶった富士山が見える。
露天風呂の左手、
市街を隔てた山の向こうから朝日が昇る。
露天風呂に屋根はなく、雨が降ったら
備え付けの笠を自分でかぶる。

泉質はアルカリ性単純温泉で、じっくりと体を温めてくれる。神経痛、筋肉痛、関節痛、慢性消化器病、もちろん疲労回復にも適応する。

  体の外側から内側にじっくり入ってくる心地良さに加えて、目から入ってくる、今日の最初の太陽と、日本一の名峰。全身がきれいに整っていくような気持ちになった。
COLUMN

富士山は昔から信仰の対象になっていて、最高に縁起の良いものとされている。この富士山と朝日が一緒に見られるのだから、気持ちが軽やかになるのは当然だろう。今回は夜景の方は見られなかったが、こちらもすばらしいそうだ。ところで、どこから見ても美しい富士山を、真上から見たことが何回かある。飛行機の窓から、天候や航路などのタイミングが合うと見えることがある。天下の霊峰を真上から見下ろすのは、少々恐れ入るが、はっきりとその形や周辺の地形が分かって興味深い。不思議なくらい整った円すい形をしているのが分かる。真上から見た姿は、本音を言うと、ちょっとかわいらしくもある。

(取材:岩間靖典)
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