スペシャルコンテンツ/「日本の名湯開発物語」/2006年に発売20周年を迎える「日本の名湯」、発売開始から現在に至るまでの開発秘話を一足先にご紹介!

※文中に出てくる社名、団体名、商品名などは当サイトに初版で連載いたしました2005年6月から2006年3月現在のものです。


本物の温泉は作れない
消去法のような作業

 温泉は昭和23年に制定された「温泉法」という法律で定義されている。この温泉法を丁寧にひもとけば、温泉成分や温度については理解することができる。入浴剤開発のプロフェッショナルたちにとって、それは難しいことではなかった。
 しかし、実際の温泉の成分には浴槽を傷めてしまうものなど、そのまま商品化するには不適切なものもたくさん含まれているのだ。ある成分の濃度が濃ければ、それは温泉としては個性的だが、「入浴剤」という商品は、さまざまな人が日常的に使用することが前提だ。成分の特性やユニークさだけにとびつくわけにはいかない。
 せっかく「温泉入浴剤」というテーマが決まったのに、消去法のような作業を続けるのは、開発者にとってつらいことだった。
 ましてや、どこの温泉をモデルにすればいいのだろうか?
 有名温泉地?いや逆に秘湯?選ぶ基準が見つからない。開発者個々にも好きな温泉や思い入れのある温泉が存在するのも当然で、互いに温泉名を推挙していても、らちは明かなかった。

新たな疑問
あらゆる文献や書物を調べた
あらゆる文献や書物を調べた

 さらに新たな疑問が開発者の頭をよぎる。本当に成分を入れるだけで温泉を再現したと言えるのだろうか?「成分を入れたから、はい、温泉と同じです」では、どうも自分自身がピンとこない。
 「本当の温泉をつくること、それが研究者の使命だ」
 自分に課した課題の中でもがいていた、と研究の谷野は当時を振り返る。
 「納得しないままで、嘘の入浴剤は作りたくなかったんです」
 温泉地から湯の華を取り寄せたり、文献や書物を調べた。
 その中でたまたま「温泉は不思議な力を持つ。温泉は地中から湧き出るバージンウォーターであり、だからこそ効能があるのだ」というようなくだりを見つけた。バージンウォーター、つまり誰も触れていない生まれたての温泉ということだ。それを入浴剤で再現できるのか?担当者らはますます悩んだ。
 そんな閉塞気味の状態からの脱出を図るために、商品開発の安田の提案で開発者たちは外に出ることにした。外部の専門家の客観的な話を聞こう、ということになったのだ。
 メンバーは、財団法人中央温泉研究所の門を叩き、故益子安先生を訪ねた。

温泉はまず成分
この一粒一粒に温泉成分が凝縮されている
この一粒一粒に温泉成分が凝縮されている

 「温泉は生きているのだから、湧き出たところで入らないと本当の効果は得られないですよ」先生も同じような言葉を仰った。ショックだった。しかし先生は言葉を続けられた。
「しかし、確かに湧き出たところに行けば転地効果の要素もありますが、一番はお湯に溶け込んでいる化学成分、それが効くことで身体に良いのです。温泉はまず成分です」
「成分なら近づけられる!」それは確信に変わった。
 温泉は成分が決め手だという先生の言葉は、研究スタッフにとって強い後押しとなった。
「あの先生の言葉が最後まで私の温泉入浴剤開発の原動力になっていました」
 当時を振り返って研究の谷野は言う。
 あくまでも自分たちの目的は入浴剤の開発だ。自分たちには温泉入浴剤を作るというミッションがくだっている。使命があるのだ。くじけそうになる精神を支えたのは、商品企画者としての心意気だった。安田はそのときの気持ちを振り返る。
 「最初は、会社の命令でしたから、なんとかして成果をあげたいという気持ちが強かった。学生が宿題を出されて良い成績を残したい、そんな気持ちに近かったと思います。それが長い時間、温泉のことを調べていると自分自身が温泉のファンになっていて、『家庭の風呂で少しでも温泉に行った気分でリラックスできたらみんな喜ぶだろうなあ、作りたいなあ』という純粋な気持ち、使命感のほうが大きくなっていったんですね。だからなんとしても、作りたかったんです」

※日本の名湯は、温泉と全く同一というわけではありません。